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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

「巽?」
「ようやく辿りつけた。気が遠くなるほど長い間、ずっとお前に恋い焦がれて、溺れ続けて……諦められなかった。奪いたかったんだ、どんな男からも」

 涙を滲ませる巽に向け、わたしは浅い呼吸をしながら両手を伸ばし、彼の表情を隠す手を剥がすと、巽は無垢なる涙を流していた。

「巽。わたしを愛してくれて、ありがとう」

 その泣き顔があまりにも綺麗で、巽が愛おしくてたまらなくて、わたしも嗚咽を漏らす。

「アズ。あんな抱き方をして、お前に辛い思いをさせてごめん。恋人がいたのに……奪ってしまってごめん。すぐにお前を見つけれなくてごめん」

 巽はわたしの手を取り、頬につけた。

「多分、俺の手紙もアムネシアも、母さんが千切った。そんな母さんを見捨てないでくれてありがとう」

 その慈愛深い美しい微笑みに、心が奪われる。

「だって、わたしのお母さんだったひとだもの」

 いつか義母も、こんな顔をして笑ってくれるだろうか。
 昔のように。

「過去系にするなよ。現在になるんだから」
「巽、それは……」
「俺の嫁さんと母さんは、ずっと笑い合って欲しいと、昔から思っていた。……お前と母さんは」

 巽はまっすぐな目をして言った。

「結婚を大前提に、死ぬまで俺の恋人になって欲しい」

 こんな時に、巽は言う。

 本当に参ってしまう。こんな幸せの絶頂期に、さらに幸せな気分にさせて言うなんて。
 こんなの、断ろうとも思えないじゃない。

「返事は? YES OR YES!」
「ははは。YES、勿論。よろしくお願いします」
「やったぁ!!」

 その時の嬉しそうな巽の顔をわたしは一生忘れないだろう。
 その笑顔のために、すべての苦しみは報われた気がした。
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