この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

由奈さんが頼み込んでも、今月末でルミナス社員の処遇を決めるという巽の決意は変わることはなく、皆からの期待はわたしに一心に浴びせられることとなったが、わたしといえば、そんな期待に応える暇なく、そして怜二さんと会ったり電話したりする余裕など一切ないままに、企画部として与えられた机で、巽が命じた百の企画書を取りかかっていた。
おかげさまで貫徹二日め。
どっぷりとした黒々なクマが見えないのは、ルミナス主力商品のひとつである、通称クマ隠し(ハイドベア)のおかげだ。
これは残業続きを見兼ねた香代子が企画案を出したものであり、社員も重宝しているありがたい代物でもある。
「五十五枚、五十六枚……あと四十四枚足りなーい」
どこぞの怪談のヒロイン級の怨霊のように叫ぶと、誰もが震え上がり、特にルミナス社員は香代子と怜二さんに浄化を求めにいく。
明日一日で百にしなければ、巽からどんな蔑みを受けるかわからない。
なによりわたしの肩に、ルミナス社員の今後がかかっているし、わたしのプライドの問題でもある。
初日に巽から聞き出した由奈さん曰く、一応はルミナスブランドは残るらしいが、アムネシアのシリーズの担当も数名であるし、ルミナスブランドや蓄えたデータに精通しているルミナス社員が数名いればいいだけで、三十名もいらないというのが、アムネシア側上層部の言い分。
そして役職付だけを残して後は解雇すればいいのではという意見にまとまりかけた時、巽が、アムネシアの社員に相応しいか否か選別すると言い出して、実際のところ何名を残すつもりかはわからないが、巽なりにワンクッションを置いた救済の形をとったことになる。
由奈さんの親、つまりルミナス社長はアムネシアの幹部になれたようで、元からルミナス社員達を助ける気はなく、アムネシアの意向に逆らうつもりはないようだ。

