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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

各課に配属されたルミナス組は、今月末まではお試し期間として、アムネシア社員に監視され、様々な面から点数化されるらしい。
そんな監視対象には、仕事らしい仕事を与えられないまま、アムネシア社員の雑用としてしか機能していなかった。
その屈辱を噛みしめながら、ルミナス入社十年のベテラン社員も、新人の如くコピー取りを頑張るしかない……平たく言えば暇なのだが、新人ならとにかくルミナスの一線で戦ってきた彼らは、彼らで出来る仕事をしようと必死で、大会社に転属して怠慢になりやすいという巽の言葉を借りるのなら、巽の目論みは成功したといえる。
まあ、ルミナス社員を解雇させたくないという殊勝な気持ちが、彼にあれば、だが。
「藤城、ちょっとこっちに来て」
今までどこにいたのかもわからない、何日かぶりで顔を見る恋人が、公の場からわたしを連れだした。
頭の中は百の企画書しかないわたしは、フーフーと(化け)猫のような威嚇をしながら、わたしの思案時間を邪魔する彼の後についていく。
彼は中央棟にある下から見上げれば丸見えの、奥が硝子張りになっている個室につれて鍵をかけると、わたしを抱きしめて、わたしの肩に顔を埋めて囁いた。
「大丈夫、大丈夫だからな」
背中をぽんぽんと叩かれ、企画だけに向いていたわたしの刺々しい心は和らいでいく。
「……というか、きみに会えない俺の方が辛い」
そう寂しげに囁いて、ぎゅっと力を入れて抱擁してくるから、わたしも怜二さんの背中に手を回して、彼の匂いを鼻一杯に嗅ぎ、心を宥めた。
「なんで、電話の電源切っているの?」
「え……。もしかして、充電が切れてたんじゃ……」
「こらっ、なんのための電話だ」
怜二さんは身体を離すと、唇を尖らせて割り曲げた人差し指の関節でコツンとわたしの額をノックする。
「企画、しなきゃいけないんだって?」
「はい。明日までに百を」
怜二さんは唖然としたようだった。

