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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける
 
「いけないな、最後までしたくなる」

 好きなのに。
 だけどセックスをするには、蜜を装わないといけない。
 このままの、今のままのわたしでは、純粋な愛の行為が出来ない。

「駄目ですよ」

 だから、ラブローションを手にしていないわたしは拒む。
 ここは会社だと勿体ぶりながらも。

 すると怜二さんはわたしの背広の前を開けて、ブラウスの上から下着ごと胸に貪ると、歯で先端を噛んだ。

「ああ……っ」

 感じるのに。
 ちゃんと気持ちいいと思うのに。

「本当にきみは感じやすいな」

 それでもわたしは濡れない。
 
「だって……怜二さんだから……」

 それを隠して出る言葉は、なんて演技臭いんだろう。
 怜二さんだから、気持ちいいと感じられるほど、心を許しているというのに。

「ん? 俺がなに?」

 腰と腰をくっつけるようにして抱きしめられれば、彼の変化がよくわかる。わたしを求める彼が、愛おしいと思う。

「この後俺、トイレ直行確定だな」
「なんで?」

 意地悪く笑うと、怜二さんはわたしの手を取り、ズボンの膨らみを掌に包ませるようにして動かしながら、わたしの耳に囁く。

「きみが俺の愛撫に乱れて喘ぐ可愛い姿思い出したのに、きみの熱く蕩けた中に挿り損なった、可哀想な俺の猛りを鎮めるため。最後まで、具体的に聞きたい? それとも見たい? ズボン脱ぐ?」
「も、もういいです、十分ですっ」
「あははは。嫌がるなよ。きみを中まで愛しているものだぞ?」

 濡れない。
 濡れない。

 こうした話をしていて酷く苛立つのは、寝ていないからだろうか。
 彼は本当に気づいていないのだろうか。
 本当にわたしは彼の愛撫や挿入で濡れていると、思えているのだろうか。

 彼を欺いている偽りの蜜に、罪悪感が高じて居たたまれなくなる。
 
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