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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

「さあ、仕事に戻りましょう」
そう言うと、彼はわたしの首筋に唇をあてて吸い、わたしはぴりっと痛みを感じて顔を顰めた。
「……よし、うまくついた」
悪戯っ子のように怜二さんは笑い、わたしはキスマークをつけられたのを知る。
いつどこで誰が見ているかわからないから、絆創膏で隠さないといけないと冷めたものの考え方をするわたしがいる。普通はここで彼氏の独占欲や愛に、きゅんと心をときめかせるところなのかもしれないけれど。
軽くため息をつきながら、ふと硝子の奥の玄関ホールの景色を見たわたしは、ぎゅっと心臓が縮み上がりそうになった。
「……っ!」
巽がいたのだ。
下に巽がいて、殺されそうなほど凶悪な目を向けていた。
ここは五階だ。
わたしだと、そしてここでわたし達がなにをしていたかも、わからないはずなのに。
しかし、彼はわたしをしっかり睨んでいるように思えた。
彼に、痛いくらい見られていると思ったら――、
「……っ」
じゅん、と枯れた部分が濡れた。
ああ、なんて浅ましい。
こんな遠い距離から睨まれているのに、なにより怜二さんと一緒にいるのに――巽に見られていたと思うだけで、わたしの身体から歓喜の熱い蜜が滴るとは。
どうして巽にはこんなに簡単に、わたしは熱くなって蕩けてしまうの?
どうしてわたしの身体は、怜二さんを裏切るの?
……危険だ。
視界に巽を入れるのは。
問答無用で、惨憺たるわたしの身体は興奮してしまうから。
固く閉じられた蕾が、蜜を滴り花開こうとする。
そんなのは、駄目だ。
わたしは、おかしい。

