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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

「どうした?」
「いえ……。いい案が思いついたので、仕事場に戻ります」
「そうか。頑張れよ」
頭の中が朦朧としている。
巽に見られたということが、わたしの軸をぶれさせる。
巽。
巽。
恋人といながら、わたしは巽のことばかり考えてしまう。
こんなに近くにいるはずの怜二さんが霞み、普通の感覚が失われた見当識障害と、幻覚錯覚が入り乱れるこの重度な意識混濁は、早く家に帰ってぐっすりと眠って治さないといけない。
……もう、巽の姿はなかった。
最初から巽はいなかったのだろうか。
寝不足が引き起こした譫妄(せんもう)に陥っていたのだろうか。
「あのさ、杏咲。その企画が終わったら、温泉に泊まりに行かないか?」
……きっとそうだ。
――コンセプトは、禁断の愛。
わたしは怜二さんに曖昧に返事をしながら、わたしなら……作った最高の口紅をつけて、巽にどうされたいのかをぼんやりと思う。
「……っ」
身体が熱くなる。
そう。
わたしの頭は狂っているから――キスをされたいと、思ったのだ。
キスだけでは無く、わたしの身体を甘く蕩かせて欲しい。
彼の前ならきっと……、偽りではない真実のわたしでいられるから。

