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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

そんなすれ違いの年、高校受験が一ヶ月後に控えた一月の中旬。
一月が誕生月のわたしは、机の上に巽が送り主だと思われるアムネシアが置かれているのがわかっていたのに、最後の塾の追い込み合宿があるため、それを水が入った瓶に差し込んだまま家を出て行った。
まだ学校から帰らない巽にお礼も言わずに。
そして帰ってきた時、アムネシアは瓶ごと割れて床に落ち、花びらを散らして枯れていた。
わたしの挿し方が悪くて落ちてしまったのだろう。
……雑に扱ってしまったアムネシアは、今考えれば、毎年アムネシアを贈ってくれていた巽からの、最後の誕生日のプレゼントになってしまったのだ。
わたしが受験のために犠牲にしてきた時間は取り戻せなかった。
わたしが無事第一志望の公立高校に合格出来てひと息つけるようになった時にはもう、おとなびてしまった巽の世界にわたしは不要となっており、彼は意識的にわたしから目を背け、わたしの存在自体を無視するようになったのだ。
巽の背は伸び声は低くなり、肩幅も広くなった。
一人称は「俺」となっていて、クールというのか無愛想というのか、皮肉気な笑いしか見せない可愛げ無い男になってしまっていたのに、女達は歓声をあげて群がり、近所でべたべたと巽に触れているのを見るのも多くなる。
さらに巽が夜遊びをするようになって、女物の香水をつけて帰ることも多くなり、事故だったらどうしようと心配で彼の帰りを寝ないで待っていたわたしは、毎日のように強烈な怒りと悲しみに身を焦がしていた。
心臓が痛くて、食欲もなくなっていた。

