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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける


――杏咲、反抗期の弟くんが男として好きなんじゃないよね?

 巽の反抗期をぼやいていた友達が、わたしの体調不良の原因をそう指摘した時、わたしの心臓は口から出そうなほどに驚愕した。

――まさか、そんな気持ち悪いこと、杏咲が思っているわけないよ!

 恋愛感情と身内の独占欲は紙一重だと思うけれど、香水をつけた他の女ではなく、わたしを抱いてくれればいいのにと思ったことがある時点で、身内の情ではないことに気づく。

 友人の言葉で自覚した恋は、同時に別の友人の言葉で表沙汰に出来ない邪なものだと悟る。

 大事な弟を、恋愛対象に見ていたなんて、こんな気持ち悪い想い、両親にも巽にも知られるわけにはいかない。

 わたしは家族を破壊したいわけではなかった。
 破壊してまで巽とどうこうしたいという強い気持ちはなく、ただ芽生えていたわたしの気持ちに戸惑っていたのだ。

 男は他にも沢山いる……そう思い、半ばやけくそ気味に彼氏を作った高校二年生。

 きっかけは友達に人数合わせのためにつれていかれた合コンで、にこやかな彼氏はどこか巽を彷彿し、話も合い数日後に付き合うことになった。
 自分でも馬鹿だと思うけれど、巽の影がある男なら、わたしも愛せるとそう盲信的に思ってしまったのだ。

 付き合った彼氏はわたしに触れたがり、帰り際、ファーストキスを奪われた。

 それを偶然、学校帰りの巽に見られてしまい焦ったけれど、彼はまるで興味がないようにしてすり抜けて家に入ろうとしたから、唇を噛みしめたわたしは自分から彼氏にセカンドキスをねだった。

 ……巽は、振り向きもしなかった。
 
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