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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

「巽……」
ねぇ、いつだって蔑んだ目で疎ましいようにわたしを拒んでいたのは、わたしの受験のせいだけではないよね?
血の繋がりもないのに姉貴ぶって偉そうにして、そのくせ義弟を男として見る気持ち悪い女だから?
「好きに、なって……ごめん」
だったら――。
なんの縛りもない赤の他人のわたしを、なぜ今もそんなに嫌うの?
「父さんと義母さんを……引き裂いてごめん、なさいっ」
わたしは泣きながら、飛び起きる。
白い天井、白いシューズボックスと、ピンクの薔薇の花を模した玄関マット。
ここは見慣れた、わたしの部屋の玄関だった。
わたしは家に戻ってくる早々、玄関マットの上に顔をつけて、靴も履いたままで眠っていたらしい。
巽が義弟だった昔のことを夢で見た気がするが、ぼんやりと靄がかって詳細はわからない。
思い出せる最後の記憶は、怜二さんと一緒にいた休憩室。
のしかかる企画書を押しつけた張本人の冷たい眼差しに、その後の日常的な記憶も吹っ飛んでしまうほどに、わたしにとってはかなりのストレスだったらしい。

