この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

巽は顔を上げて、じっとわたしを見た。
「危険な愛が、恋に溺れること?」
商品名は最後につけれられることも多いが、企画慣れしていないわたしは、最初に名前が思い浮かんだ。
「はい。恋は不安定で欲が強くなるもの。愛は安定していて相手の嫌なところまで慈しみ守るもの。そう考えれば、命をかけるほどに向こう見ずで衝動的なもので、強い力を感じるのは恋の方かなと。そうした恋に溺れた末に願う危険なものは……」
「危険なものは?」
わたしは一度言葉を切ってから、至って平静に努めて言った。
「たとえ相手に恋人があろうとも、奪ってしまうような……激しく燃えさかるような恋情の終焉」
視線が絡み合い、僅かな時間――時が止まったような気がした。
押し黙った巽は、唇を僅かに戦慄かせていた。
これはわたしの意見があまりに夢想的すぎて馬鹿にされたのか、それとも別に理由があるのか。
しかし巽事情なんてお構いなしに、わたしは続けた。
「愛はそのまま、安定と穏やかさに満ちた結婚にイメージが結びつきます。しかし口紅の対象は独身OLです。もっと身を滅ぼすような恋をしたい。巡り会いたい。そうした貪欲なまでの渇望と、恋に溺れる彼女達の武器になれるような、妖艶な道具になれたらと」
やがて、巽は絞り出すような声を出した。
「妖艶な道具? もっと具体的には」
「……相手に欲情して貰える口紅です!」
言ってから思う。
あれ、わたし……そこまでのことを考えていたっけ?

