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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

睡眠は玄関で寝ていた一時間あまりだけ。
ほぼ三徹のわたしは、途中呂律が回らなくなってしまったけれど、逆に頭を朦朧とさせたわたしに向けられた巽の質問は、こうしたいというわたしの具体的なアピールポイントを明確にしていく。
巽は『溺恋』の企画書を読み始め、そしてそれを持って立ち上がり、わたしに応接のソファに座るようにと指示をして、彼は初日と同じように反対側のソファに座ると、文句のような質問をしてくる。
「美容液効果のあるグロスつきの口紅だけでは、僕なら欲情しないな。そんなベタベタした唇に触りたいと思わない」
寝不足でかさついたわたしの唇は、グロスで補い元気溌剌だろう。
そんなことを知らないで、好みを押しつけるなとわたしは内心憤る。
「仰られますが専務、ルミナスには濡れているように見せてさっぱりとした感触の、エモリエント成分を使ったグロスがあります。なにもベトベト光っているだけがグロスではなく、潤いを見せるための補佐としても十分に機能します。わたしの口紅もそうです!」
緊張に緊張して受け答えしていたのに、巽は物知りなのか無知なのかわからない。
わたしは経験者として威張って言うと、企画書を見ながらわたしに手を伸ばした巽は、なんとわたしの唇を指で撫でて、汚いものでも触ったかのように人差し指と親指の腹を摺り合わせて言った。
「あ、本当ですね。でしたらルミナスのグロスから発展させましょうか」
巽は内ポケットからボールペンを取り出して、わたしの企画書に赤く文字を書く。

