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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

怜二さん、どきんとしてしまったわたしを許して。
今の不意打ちかつわたしの顔を見ないで指だけの感触で確かめる巽は、あまりに失礼だと思いませんか。
それに、まるで子供のテストの不正解のように、赤字で書くのって酷くないですか。
そんなことを堪えながら、わたしはにこにこと出来るよう頑張るが、やはり寝てないのが祟っているのか、巽のひと言ひと言がかちんと来て、言い争いのような討論になってしまう。
そこにノックがして由奈さんが入ってきた。
今日も一段とお姫様のように可愛らしい。
……恋する乙女は巽会いたさに、元が美女でもさらに綺麗になる、か。
「巽くん、お昼一緒に食べよう……って、杏咲ちゃん。わ、どんなの作っているの?」
気安く後ろからわたしの企画書を覗き込もうとした由奈さんに、巽は企画書を乱暴に裏にすると、顔を上げずに由奈さんに怒鳴った。
「打ち合わせ中なので、入ってこないで下さい!!」
「あ、ごめん……」
「別に由奈さんですよ? 婚約者くらい……」
「藤城さん。この企画は真剣なんです、集中力を乱すな!」
「はぃぃぃぃぃっ!!」
鋭い切れ長の目で射られて、わたしは竦み上がった。
「由奈も、邪魔をしないで」
「ご、ごめんね、頑張ってね」
由奈さんが怯えた顔で部屋から出て行くが、巽は一度も顔を向けることも、返事をすることもなかった。
初日はあんなに優しい目を由奈さんに向けて、イチャイチャして見せたのに、本当に巽は由奈さんを溺愛して結婚にこぎ着けた男なのだろうか。
「――いいでしょう。まだ大分粗はありますが、及第点ということで、こちら『溺恋』をシリーズ化出来るように合わせて煮詰めていきましょう」
「え……、通ったんですか?」
昔の巽への想いを凝縮して、今の巽に色々突っ込まれたものが、製品化になる?

