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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

「残念です。僕はすべてを却下して、さらに百の企画書を言うつもりでしたが、あなたは予定二百の企画書分のものを考えてきてしまったとは」
「なんですか、それ……」

 通った。
 巽への気持ちを形にした溺恋が、通った――。

「あははは。やれば出来る子でよかったですね、まったく広報に押さえ込んでルミナスは能力の無駄遣いをさせていた……って、なんで泣くんですか」
「いや、その……嬉しくて」

 気が抜けてしまったせいか、涙が止まらない。

「まったく……。そんなに泣くと化粧が剥げて凄い顔になりますよ?」
「元が悪いですからお気になさらず」
「……。ふぅん? 悪い、ねぇ?」
「え、なっ」

 巽がじっくりとわたしの顔を覗き込んでくるから、わたしは顔を隠そうと慌てて俯いた。

 突然見つめてくるなんて反則だ。
 理性が眠気の彼方にある今のわたしに、そういう不意打ちはやめて欲しい。巽にとってはなんでもないことかもしれないけど、こちらは秘やかに巽への感情を解放させてしまったのだから。

 そんなことを思っていると、ソファが軋んだ音をたて、わたしの隣が沈んだと同時に、ひとの気配がした。

「僕は、女性の泣き顔を見るのが嫌いなんです」

 そう言いながら、いつの間にか隣に座っている巽は、わたしを抱きしめ――わたしの顔を、彼の胸に押しつけた。
 
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