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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

「高校時代、モデルをしてたんですか? 数日前、香代子に教えて貰いました」
今だったら和やかに昔のことを聞けそうだと思った時、口から言葉が出ていた。
「……ええ。今となれば、どうでもいいことですけれど」
しかし和やかな空気ごと隠蔽して、巽は陰鬱な表情を浮かべるて、ぼそりとこう言った。
「これから作る欲情する口紅、僕は……あなたに欲情出来るでしょうか」
わたしに向けられている黒い瞳が、しっとりと濡れて揺れている。
それに呼応して、どきんという心臓の音と、きゅぅんという子宮の音が聞こえた。
まるでわたしは準備OKとでも言っているかのように。
「し、しません! 専務だけはわたしに欲情しません!」
身体の変化を感じてわたしは距離を開けようと立つが、手を引っ張られてよろけてしまい、巽の膝の上にぽすんと座ってしまった。
「す、すみません」
慌ててどけようとするわたしを、わたしの下腕を掴んだままの巽の手は離れない。
「あ、あの……」
「あの溺恋の企画。俺が言ったのと別にした特別な企画は、誰を思って考えた?」
命令調の、わたしが怖く思う巽の口調に戻る。
ぎらつくような切れ長の目にぞくっとした狂気を感じてしまう。
「こ、購買客の……」
「違うだろう。誰に欲情して貰いたかった?」
言えるわけない。昔のわたしだろうが、義弟だった男に欲情して貰いたかったなんて。
言えるわけない。姉が弟にそんな気持ち悪いことを思っていたなんて。

