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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

「見て頂けているんですね、企画書。ありがとうございます」
「ええ、一応は命じた身として、クソ面白くない企画書ですが。よくこんな下らないものばかり集められたものだと思いますが、まあでも花札では最低の札でも数さえ集めれば、カスという役にもなりますしね」
「……専務、お言葉がお下品です」
「はは、つい本音が」
……神様。
一度は胸が痛むほど好きだった男性ですが、思いきり、きゅうと奴の首を絞めてもいいですか?
「その赤字はなんでしょう」
「疑問点と改善点です。これをクリア出来れば、単発でも面白い企画になる。まあ、ほとんど僕の企画になってしまいますが、提案者はあなたに譲りますよ。なんと言っても落ちこぼれさんなら、功績は喉から手が出るほど欲しいでしょうし。あはははは」
……神様。
きゅうっと殺りたいです、きゅうっと!
それでも――。
「改善点とか、考えてくれたんですね」
百の企画書はあと数案で終わる。
どれだけ寝ていたのだろう、わたしは。
「それが礼儀じゃないですか? どこが悪いのかも具体的に言えずに再度考えろと頭ごなしに言うのでは、伸びないでしょう、あなたが」
「……そういう、上司もいらっしゃるんですね」
本音を吐露してしまえば、巽は不思議そうに首を傾げてわたしを見た。
「広瀬さんはそうしないんですか?」
「彼は……ここまで親切には教えてくれません。気づくことが成長だと、そう思うひとですから」
「はは。そうやってあなたの才能を閉じ込めてきたのか、広報という体の良い裏方で」
「え?」
「なんでもありません。ただ……クズだなと思っただけです」
「わたしがですか?」
「いいえ。広瀬さんが、です」
わたしはむっとする。
「なぜそう思われるんですか?」
「今日、飲みに行きませんか」
巽がわたしの言葉を遮り、本当に唐突に笑顔で言った。
「の、飲み?」
思わず拍子抜けしてしまうほど、それは予想外で自然な切り返しだった。

