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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける
「はい。あなたは僕の予想以上の働きをしてくれた。そのご褒美に」
「別に専務個人の仕事を請け負ったわけではないですが」
「ではこう言いましょうか。新たにアムネシア入りしたあなたと親睦を兼ねて。僕達ひとつのものを仕上げるのに、いがみ合いは善くないと思うんです」

 ……正論だ。
 だけど、いがみ合うように怜二さんを悪く言ってきたのはそっちで、親睦もなにも十年前の記憶はその優秀な頭の中に残っているのかと不安になる。
 正直、別に飲みたくない。
 今の巽は会社の上司というだけの存在なのだから。

 巽はさらりと女子社員を誘えるのかもしれないけれど、わたしは慣れていない。
 なによりふたりきりということならば、由奈さんにも怜二さんにも悪い。
 どうすれば飲み会案を断ることが出来るだろう。

 そう考えながら言い淀んでいると、巽はくすりと笑った。

「広瀬さんもどうぞ」
「え?」
「たとえ上司命令だとしても、彼氏に悪いと思っているのでしょう?」
「命令なんですか、飲み会。わたし潰すことを考えていたんですが……って、あ」
「はは。潰すのはなしです。なんならあなたのお友達も誘って構いません。あくまで親睦会なので。勿論僕の奢りですので、料金などは考えずに。高いお店でも構いません。あなたが行きたいと思うお店を、予約しておいて頂けますか?」

 だからわたしは――。



 ***


「……確かに僕は、友達も誘っていいと言いました。ええ、それは認めます。しかしなんだって……、ルミナス社員を全員連れてくるんですか!」
「皆、わたしの仲のいいお友達ですから」

 元ルミナス、重役除いて三十名が、現われた巽の姿にどっと沸いた。

 予約場所は地下鉄の駅界隈にある、大衆居酒屋。
 予約料理は食べ放題ちゃんこ鍋と、飲み放題。

「いや~、すみませんね、専務。奢りだなんて」
「食べ放題に飲み放題だとは太っ腹! 専務、ビールでいいですか!?」
「さささ、専務。由奈嬢の元に」

 ……ルミナス社員は、アムネシア……とりわけ審判をする巽にぴりぴりとしている。
 そして巽も、ルミナス社員の人柄も能力も見ずに点数で判断しようとしている。

 その和解案として、わたしは由奈さんの協力も得てルミナス社員全員を誘ったのだ。
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