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SOS
第2章 虚空と現実
「はーあ……」
病院から出ると、木崎は大きく伸びをする。
血も涙もない雑な余命宣告した医師に一泡吹かせられたことに、木崎は満足していた。
さぁ、これからどんな人生を送ろうか────。
写真家として、成功の道を歩み始めた。癌も完治し、未来が拓けた。
あとは、生きていくための財産を手に入れようか────
どんな願いを叶えようか、わくわくと考えていたその時だった。
「やだもう、タクミったらー」
「ははっ、」
彼の目の前を、1組のカップルが通り過ぎてゆく。楽しそうに、軽やかに、幸せそうに笑い合いながら────
木崎は昔から自分に自信がなく、女性にも積極的になれずにいた。そのため結婚どころか、恋人の影すらない。
もしも、もっと自分が男として魅力的だったら────
「……」
叶えられる願いは、残り40個。
40個と多い数とはいえ────その数は有限である。叶えてもらう願いは、慎重に決めなければならない。
いや、そんな下らないことに願いを使ってたまるか。
男として魅力的になる。それは悪魔の手を借りなくても自分の力で十分実現可能なことである。
しかしそんな心情とは裏腹に、木崎の視線は遠ざかるカップルに釘付けだった。