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SOS
第4章 永遠と一瞬
────とある介護施設の一室。
悪魔は、ベッドで眠るひとりの男を眺めていた。
その男は、全身から管を繋がれ、ひどく痩せ細り、まるで死人のようだった。ときおり、唸ったような声をあげるが、それは、言葉と呼ぶにはあまりにも不完全なものだった。
するとそこへ、エプロンをつけた一人の中年女性がやってきた。腕まくりをし、その額には汗がじっとりと滲んでいた。
「これから身体拭きますからねー」
女性は、眠る男の身体に無遠慮に触れた。その瞬間、電気でも流されたかのように、男の身体がびくり、と跳ねた。
「あーあー。また……そんなびっくりしないでいいのよ」
うぅん、とくぐもった声が男の口から発せられる。しかし女性は気に留めず、服を脱がせると男の体をタオルで拭いていった。
「早野さん、どうー? 進んでる?」
女性が男の身体をせっせと拭いていると、その部屋にまた別のひとりの女性が入ってきた。
先程から身体を拭いていた、早野と呼ばれた女性はその手を止め、額からだらだら流れる汗を拭った。
「あー来てくれたの? ありがとう。助かるわー」
「他の人の援助、早く終わったから手伝いに来たの。木崎さんの介助、さすがに一人じゃ時間かかるでしょう?」
あとから来た女性が加わると、今度は二人がかりで下半身を拭いてゆく。
「でもねー、この人もほんとう、可哀想よね」
「そうよねぇ。ある日突然倒れて、それからずっと寝たきりなんでしょう? しかも、寝たきりになった途端家族にも捨てられて……今は独り身なんだもんねぇ」
考えただけでも地獄だわ、と女性は重暗い表情でぽつりと呟く。
「でも本人の意志だって聞いたわ。安楽死はやめてほしいって、わざわざ文章に残してるって……」
「そうみたいね。しかも昔稼いだ財産で高額の延命治療も死ぬまで継続できるんだから。本人の希望通りじゃない」