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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第1章 ヒイラギと姫君
「スグリ姫様、お初に御目に掛かります。この家の家令の、クロウと申します」

先程荷物を運び込んだ際に一度中に入ったバンシルに伴われ、スグリ姫はサクナの屋敷に辿り着きました。
屋敷は平屋で、石造りの壁には所々蔦が垂れています。
扉には、果物の木のような柄の浮き彫りが施されていました。
玄関を入ると、灰色の髪の年配の男性が、姫とバンシルを待っておりました。

「初めまして、クロウ様。スグリです。これから、お世話になります」
スグリ姫はぺこりとお辞儀をしました。

「スグリ姫様?」
「はい」
家令は淡々と姫に言いました。

「スグリ姫様は、当主の奥方様になられる方でいらっしゃいます。私のことは、ただ、クロウとお呼び下さい」
「分かりました。クロウ…さん…でも良いですか?慣れるまで」
「畏まりました、少しずつ慣れて頂きましょう。バンシル様、先程一度お会いしておりますが…初めまして、クロウで御座います」
「ご機嫌よう、クロウ様」
挨拶を交わしたあと、クロウは二人に言いました。

「お二人共、慣れぬ遠出でお疲れで御座いましょう。当主もそろそろ仕事を片付けて戻って参りましょう。それまでお茶でも召し上がってお待ち下さい」

そう言われ居間に誘われて、二人はクロウの給仕で、お茶を頂くことになりました。

「どうぞ、スグリ姫様」
「ありがとうございます、クロウさん」
姫はお礼を言って、お茶を一口飲みました。

「クロウさん!」
「何で御座いましょう、スグリ姫様」
「…これ…美味しいです…!」
姫はびっくりした顔で、クロウに言いました。

お茶のカップを口元に運ぶと、お茶の香りがしたあとに、ふわっとリンゴの香りが感じられます。
一口飲むとほんの少し渋い紅茶の味にお茶の香りとリンゴの香りが混ざり合い、口の中にほんわり温かさを残して、鼻に抜けて行きました。

「お気に召しましたか。紅茶とリンゴを合わせております。リンゴは、一番香りが立つ時期と品種の、木成りのリンゴで御座います。紅茶も、それに合う産地のものを選びました」
「…冬の初めの味がするわ。冬の初めの、朝の冷たい空気と、お日様の味」

姫は、お茶をまた一口含んで目をつぶり、少しの間だけ口の中に紅茶を留めると、白い喉を鳴らして、こくん、と飲み下しました。
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