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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第1章 ヒイラギと姫君
「とっても、美味しいです。元気が出ました、ありがとうございます」
「それは、よろしゅう御座いました」
クロウがそう言って口元をほんの少し綻ばせると、姫も紅茶で温まって薄桃色になった頬を緩めて、うっすら微笑みました。

姫はお茶を飲んだことで、少し落ち着きました。
そして、先程までのことを、ぼんやりと思い返しました。

(分かってる、そんなの。ローゼル様みたいな人がきっと居るって、分かってたもの)

サクナに今まで誰かが居ただろうということなど、姫にも分かっておりました。
この地に来たなら、そういう人と会う可能性が高くなると言うことも、ちゃんと分かっては居たのです。

誰かが居たのは、姫だって同じです。
姫の内側に入ってそれがどんなに気持ち良く満たされることなのか分からせてくれたのも、素肌に掌が触れる快感や安心感を教えてくれたのも、たった一人ではありました。
けれど、それまでに姫は99人の殿方とのお見合いで、いろいろなことをしたり、されたりしてきたのです。

それはどちらにとっても今更どうしようもないことですし、そのことは姫もサクナも分かった上で、この先ずっと一緒に居ることを選んで、今ここに居るのです。

(…それに、ローゼル様みたいな人だけじゃなくて、タンム様の妹さんみたいに、サクナは全然そう思ってなくてもサクナのことを好きな人だってきっと居るだろうし、果物王子のファンとかまで入れたら、もっとたくさん居るだろうし…分かってるわよ、そんなこと)

分かっては、居るのですが。
姫は先程ローゼルに「サクナ様のことをご存知なのはスグリ様だけじゃ無い」と言われた時から、どこか見えないところに棘がささってしまったように感じていました。痛まないときは忘れていても、何かの拍子でちくちく痛むのです。
そして、まるで刺さった棘から毒が回っているかのように、なんだか息が苦しいのです。

(前のことを気にするなんて、おかしいわよ…だって、サクナに今愛されてるのは私だって、ちゃんと知ってる筈なのに)

姫はなんだか疲れてしまい、椅子の背もたれに背中を預けて軽く目を閉じ、出発の前の日のことを思い出しました……………
 
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