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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第11章 休息と責任
クロウはそうではありませんでしたが、この地には、癖の有る髪の人が多いようでした。
ローゼルは波打ったような黒髪でしたし、従者のビスカスもくるくるした濃い茶色の髪です。ローゼルの兄のタンム卿は妹より少し明るい色の髪でしたが、髪質は似ています。
サクナの黒に近い色の髪も、指を差し入れると柔らかく絡んでくるような優しい癖があり、姫はそれがとても好きでした。

(ふーん…珍しいものは、クロウさんでも、触ってみたくなるものなのねえ…)
「もちろん!私の髪でよろしければ、どうぞご存分に」
どうぞ、と頭をこてんと倒した様もまた、家を守る事以上に興味のあるものは無いというのが口癖のクロウですら、撫で繰り回したくなるほどの可愛らしさでした。

(ふむ…これは、当主が一溜まりも無いというのも、分からないでもない…)
髪を触ってみるだけのつもりでしたが、クロウは思わず、姫の頭をよしよしと撫でてしまいました。
姫の髪は絹糸の様に滑らかで手触りが良く、サクナが夏の終わりに仕事に忙殺されながら、撫でてぇ撫でてぇとぶつぶつ言っていたのも無理も無いと思われました。
撫でられている姫は、嬉しそうににこにこしています。
思わずつられてにこにこしてしまいそうになり、クロウは無意味に咳払いをしました。
…と。

「…全くどいつもこいつも…人に読める字を書…」
サクナが書類を片手に愚痴りながら部屋に入って来て、姫とクロウを見て固まりました。

「おっ前っ!?何やってんだっっ!!」
「へ?クロウさんとお話し」
サクナは手近のテーブルに書類を放り出し、つかつかと姫とクロウの座っている椅子の隙間に割って入って姫を片手で抱き寄せて、クロウを睨みつけました。

「こっの野郎!俺のスグリに勝手に触んな!!」
「当主。お言葉ではございますが、スグリ様は貴方様の所有物ではございませんよ」
「うるせえ、こいつは俺んだよ!」
サクナの様子を見て、クロウは溜め息を吐きました。

「束縛する男は嫌われますよ」
「うっ…」
「あら、私そんなことでサクナを嫌いになったりしなくってよ?」
クロウとサクナの二人の殺伐とした会話に、姫が朗らかに口を挟みました。

「私、サクナに『俺のだ』って言われるの好きよ?…嬉しいし、幸せな気持ちになるわ」
姫は、自分がサクナのことを自分の男だと言ってしまった時のことを思い出し、ぽっと頬を赤らめました。
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