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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第1章 ヒイラギと姫君
明日はサクナの故郷に出発する、という夜。
スグリ姫は出発前の家族揃っての晩餐を少しの淋しさとともに終え、サクナに部屋まで送って貰って、お休みの口づけを交わしました。
それから姫は翌朝早くの出発に備えて、早めに床に就きました。

…が。
一向に、眠れません。
目を閉じて大人しくしていたら眠気がやって来るかと思ったのですが、目を閉じてみても眠くなりません。
姫は何度も寝返りを打っていましたが、諦めて寝台に起き上がりました。

「…よばい…かしらね…」
姫は、これは二度目の夜這いをするしか無い、と思いました。
サクナが起きていたら嬉しいですが、明日の朝の早さを思うと、それは望み薄でした。
けれど、サクナが寝ていたとしても、それはそれで構いませんでした。
廊下を往復して体を動かしたら、気が紛れて少しは眠くなるかもしれないと思ったのです。

今回はバンシルの協力はありません。
バンシルも一緒に行くのですから、もうとっくに寝ています。
姫は寝間着の上に部屋着をひっかけて上靴を履き、灯りを持って、そーっと廊下に出ました。

(静かだわねー…)
玄関にある時計の音が階下から聞こえるような気がしましたが、静かすぎて耳が勝手にそう感じているのかも、と姫は思いました。
慎重に歩いたので少し時間はかかりましたが、サクナの居る客間の前に着きました。
左手で拳を作って、コンコン、と小さく二回叩きました。
前の時はしばらく扉が開かなかったので、少し待ってから帰ろう、と思っていましたが。
「スグリ?」
前の時よりも早く、扉が内側から開きました。
姫はサクナの顔がまた見られたことが嬉しくて、思わず笑顔になりました。

「こんばんは」
「どうした?」
サクナは姫を迎え入れながら聞きました。

「夜這いに来ました…」
「二回目の夜這いか?…冷てぇな、もっと着て来ねぇと風邪引くぞ」
姫が寝間着の上に厚手の部屋着を着たサクナにぱふんと抱きつくと、部屋着の前を開けて中に入れて、きゅっと抱き込んでくれました。

「ふふ。あったかーい」
サクナはここより暖かい所で暮らしている為か、夏場はそうでもなかったのですが、寒くなったこの頃は姫たちよりも少し厚着をしていました。
なので、夜這いではなく約束して部屋で一緒にいるときも、姫が寒くないか心配して時々こうしてくれることがあり、姫はそれがお気に入りでした。
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