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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第11章 休息と責任
「皆様、こちらはこの人数でお話しするには、大分狭う御座います。居間に用意を致しますので、あちらに移ってお話致しては如何かと存じますが」
「居間?この隣でも良いだろうが」
サクナは無意識に姫の髪を撫でながら、クロウの言葉に眉を顰めました。

「当主。隣の執務室の長椅子は、今のスグリ様には座り心地が固う御座います。広さも居間程では御座いませんので、『人』と『人』との間が近くなりがちになる恐れが御座います」
クロウは「人」と「人」と言う時に当主と婚約者をあからさまに見詰めました。見詰められた二人の内、当主の方だけは、クロウの鋭い視線を避けてあらぬ方に目を逸らしました。

「執務室は、お仕事の場で御座います。なるべくお仕事に集中出来ます様、お仕事以外のあれこれの気配が残らぬ様にしておいて頂くのが得策かと存じます」
クロウの「お仕事以外のあれこれ」という言葉に、先程からきょとんとしているスグリ姫以外の全員が、似たり寄ったりの光景を脳裏に思い浮かべました。

「…分かった。移るぞ」
「それが宜しゅう御座いましょう」
サクナはスグリ姫の頭をもう一撫ですると、上掛けで体を包むようにして言いました。

「廊下に出ると寒いかもしれねえ。落ちねぇ様に、ちゃんとこれ握っとけな」
「うん」
「いいか、暴れるなよ?すぐ着くから、良い子で大人しく運ばれろ」
「ん」

「…参りましょうか。こちらへどうぞ」
本人達以外は辟易している世話焼きがまだしばらく続きそうだったので、クロウは主と伴侶の事は彼等の気が済むに任せる事に致しました。
クロウに促されたローゼルとビスカスは、後ろを見ずにさっさと執務室の控えの間を後にしました。



「…という訳で、お知らせに参りましたのよ」

居間に落ち着いた一同はクロウの淹れたお茶を飲み、ローゼルは主にスグリ姫に、事の経緯を説明したのでした。

「ローゼルの話ぁ分かったか?」
「ええ」
長椅子に座った姫は、斜めに寄せた一人掛けの椅子に座っているサクナに確認されて、こっくりと頷きました。
「ありがとうございます、ローゼル様!わざわざお知らせ頂いて、本当に感謝致しますわ…!御使者がいらっしゃったら、お茶会へのご招待は謹んでお受けします。当日はこの家に嫁ぐ者として、責任持って誠実に勤めるわ」
「大丈夫か?行くのはお前一人だぞ」
サクナは姫の手を握り、心配そうに尋ねました。
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