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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第12章 茶会と果実酒
「あれでいてサクナも、ちゃんと考えてるのよー?昨日だって、見えるとこには付けないように気をつけ……あ。」
呑気すぎた姫は得意のうっかりを発揮して、先程気をつけて黙っていた筈の秘密を口にしました。

「ごめん…」
「私は、何も聞いておりません」
「つい、うっかり…」
「何も聞いておりませんから、お気になさらず。…それにしても、このドレスは少し寒そうですね」
「そうなの!」
バンシルが自分のうっかりから強引に話を逸らしてくれたと観るや、スグリ姫は全力でそれに乗りました。

「探せば長袖もあるのかもしれないけど…温かい所だからか、季節は関係なくこういう風に腕を出して、薄衣を羽織るようにするのが盛装みたい」
「なるほど。その薄い羽織物も、見事ですね」
バンシルは髪を結いながら、椅子の背に掛けてある羽根のように薄い、美しい布に目をやりました。
「こんな薄い絹地に刺繍するのは、難しいでしょうね…それも、こんなに細かくなんて、何日掛かるんでしょう」
「ほんとねぇ…」
姫も薄衣に目をやって、その美しさにうっとりしました。

「城で着てみた時、薄衣は仕舞っておいて、本当に良かったわ。ドレスと違って、洗濯したら痛んじゃいそうだも……あ。」
薄衣の美しさと、それを贈ってくれた人物への愛慕でぽーっとなっていた姫は、一生黙っていようと思っていた事を口にするという、酷すぎるうっかりをやらかしました。

「ごめん…またうっかり…」
「…私は、何も聞いておりません。が……姫様?」
「う…なあに…」
「良いですか。私は、姫様の味方です」
「うん、それはもちろん!私もバンシルの味方よ!」
「それはそれは大変ありがとうございます。…ですが、私が今言いたいのは、今日これからの事です。今日これから向かわれる場所にいらっしゃる皆様方は、姫様の味方ですか?」
「うっ…」
姫はバンシルの言葉に絶句し、バンシルは姫に畳み掛けました。

「顔見知りですら、あの、高慢が服を着て歩いている様な、ローゼル様だけですよね?」
「うっ…うん」
「聞く所によると、高飛車なローゼル様も大分心を改めて、多少軟化されたとか…とは言え、まだまだ姫様と和やかにお話される所まで、仲良くなられては居ないんでしたよね?」
「…うん…」

姫は先日ビスカスに教えて貰った「しもねた」でローゼルと和む事に挑戦して、あっさり敗れた事を思い出しました。
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