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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第12章 茶会と果実酒
「しかも、王妃様は王妃様でも、この夏以降の王妃様ですよ?」
「え!?」
バンシルによる提案の追加は、驚いていた姫にさらに驚きの追い討ちをかけました。

「お話することが不自由でいらっしゃって、いつも無言でにっこり笑ってらした王妃様では無く、にっこりしながら寸鉄人を刺す元魔女の王妃様です。」
「ひえぇっ!?」
「そうすれば姫様も自然としゃっきりなさるでしょうし、心強くお振る舞いにもなれるでしょう」
「そっ…それは、そう…」
姫はバンシルの抜かりなさ過ぎる提案に慄きました。
確かに、何もかもお見通しという様な微笑みを湛えた王妃が同席していたら、これ以上心強いことはありません。そしてそんな王妃が同席していたら、確かに姫のうっかりにはしっかり歯止めがかかりそうです。
姫は、王と王妃の馴れ初めの秘密について聞いたことについて母の前でうっかり口を滑らせかけて、ぎりぎりの所で突っ込まれずに済んで胸を撫で下ろした一件を、まだ忘れては居なかったのです。

「お母様がいらっしゃったら…確かに、うっかりはしにくいかも…」
王妃の前で虫刺されの話やドレスの洗濯の話など、匂わすだけでも全て見透かされて「まあまあ、仲好しだこと!孫の顔が見られる日も近そうね?」等とにぃいいっこりと微笑まれそうです。
「そうでございましょう?…本当は、私が実際に同行出来れば、安心なのですけれど…姫様お一人で、というご指示みたいですから」
スグリ姫は、それまでてきぱきと話していたバンシルの声が、ほんの少し沈んだのに気がつきました。

「…まあ、今後私と姫様がそれぞれお互いから独り立ちする準備としては良い機会、なのでしょうね。…はい、出来ました」
「…ありがとう、バンシル…」
髪を結って貰い終えた姫は涙目で振り向いて、バンシルの顔を見ました。
「そんなお顔をなさらないで下さいまし。同行がお許し頂けるのでしたら、どんな事をしてもご一緒して、姫様をお守りするんですけどねえ」
「ばっ…ばんしるぅぅうううう…!」
「あらあら」
感極まったスグリ姫は、涙を決壊させてバンシルに抱き付きました。バンシルも姫に影響されて感傷的になったのか、彼女にしては珍しく優しく姫を抱き締めて、背中をぽんぽんと撫でました。

「おい、支度出来たか?」
そこで、隣室に繋がってる方の扉が叩かれること無しに、呼びかけと同時に我が物顔で開かれました。
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