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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第12章 茶会と果実酒
「あら…お酒は苦手でいらっしゃるの?」
「いえ、嗜む程度には」
奥方様に聞かれた姫は、ローゼルが止めてくれたのにも関わらず、馬鹿正直に答えました。

スグリ姫は酒が強くも有りませんが、全く飲めない程弱くも有りません。自ら好んで飲むほどの酒好きでも有りませんでしたが、今まで宴席で酒を口にして、困った事も有りませんでした。
ただ、姫は気付いて居ませんでしたが、スグリ姫の自分の酒の強さについての評価は、都の宴でご婦人方に出される類の酒に限っての事でした。

「スグリ様っ!」
ローゼルはこれらの果実酒が、見た目の美しさや愛らしさに似合わず、存外強い酒である事を知っていました。元々、果物を保存するという目的も持っているのです。ある程度強い酒に漬け込まなければ、果実が傷んでしまうでしょう。

一種類を味見するだけならともかく、盆の上には五、六本は並んでいます。
それだけでなく、ローゼルからすれば義母の物言いには、何かを面白がるような底意地の悪そうな含み笑いが感じられました。
(あなた、断りなさいよ!!今日は茶会なんだから、お酒を断ったって、別に非礼にはならないわよ!)
ローゼルはそう言いたかったのですが、奥方様とスグリ姫の間で表面上は穏やかに交わされている会話に、割って入ることは難しそうでした。

「それなら、大丈夫ですわよね?ご主人になられる方の作られたお酒も有るんですもの…お飲みになってみたいですわよね?」
「…!っはいっ…いただきますっ…!」
ローゼルの心の声に逆らうように、スグリ姫は奥方様に頷きました。
姫がまだ一口も飲んで居ないのに真っ赤になって口ごもりながら返事をしたのを見て、奥方様は姫でさえこの家では自分の言う事に従わざるを得ないのだと言う事に、密かな満足感を覚えました。
しかし、ローゼルは、
(ちょっとあなた!もしかして、サクナ様の事をご主人になられる方とか言われちゃって頭がそれで一杯になってない?!そんな場合じゃ無いって言うのに…!!あなた、馬鹿っ?馬鹿なのっ?!…ああ、そうだったわ、馬鹿だったわね…忘れてたわ…!!)
…と、全く違う事を感じておりました。

勿論、ローゼルが正解です。
姫は奥方様の思う壺に嵌まった事など全く以ってどうとも思っておらず、ただただ並んだ酒の美しさと「ご主人になられる方の作られたお酒」という言葉の響きに、身悶えしていただけでした。
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