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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第12章 茶会と果実酒
(あ…)
飲んだ瞬間スグリ姫は、自分の周りをふわっと柔かい空気がが包んだ様な気がしました。そして、先程からの遣り取りで体を強張らせていた力が、すっと抜けていきました。
(…これ、)
姫は何気なく口にした果実酒を、まじまじと見詰めました。
味見のために注がれたさくらんぼ酒は、あと一口ほどしかグラスに残っておりません。
残った酒は、美しい切子のグラスの中で豊潤な光を湛えています。口にした印象では、果物を漬けている酒自体が、今まで出されたどの酒とも違っている様でした。
グラスを少し傾けると液面が揺れて、瑞々しい程の果実の香りがふわりと立ち上って来ます。まるで、姫がまだ食べたことの無いこの地のさくらんぼが、実際にグラスの中に沈んでいるかの様でした。
姫はグラスに口をつけて、さくらんぼ酒をゆっくり口に含みました。酒は口の中で穏やかに揮発して、果実の香りが口腔から鼻に掛けてを柔らかく満たしました。
こくりと飲み込むとするんと喉を撫でる様に滑り落ち、酒が通ったあとの道筋にぽっと火が点るように、体も気持ちも緩やかに温かく満たされました。
(「…美味いか?」)
そう尋ねられた気がして思わず目を伏せると、果実酒の余韻が朝露の雫の様に胸の奥に滴って、体中がとろりと甘く疼きました。
(…ええ、とっても。とっても、美味しいわ…!)
スグリ姫は、さくらんぼ酒を最初に口に含んだときから周りに漂っている柔かな気配に、声にはせずに胸の中で答えました。
「お味は、いかがかしら?」
さくらんぼ酒を口にしたあと黙り込んでしまった姫に、奥方様は尋ねました。
「…美味しい、です…とても、美味しいですわ…」
姫はゆっくりと、夢から覚めた人のようにそう答えて、ほうっと息を吐きました。
「奥方様?」
「はい?」
「まだ沢山用意してくださっているのに、申し訳ないのですけれど…私、もう飲めそうに有りませんわ…」
姫はほろ酔いにはなっていましたが、まだ酔っ払ってはいませんでした。
飲もうと思えば、もう少し飲めたでしょう。用意された味見の酒は、あと三本ほどでした。全部味見をすることも、やろうと思えば出来そうでした。
飲んだ瞬間スグリ姫は、自分の周りをふわっと柔かい空気がが包んだ様な気がしました。そして、先程からの遣り取りで体を強張らせていた力が、すっと抜けていきました。
(…これ、)
姫は何気なく口にした果実酒を、まじまじと見詰めました。
味見のために注がれたさくらんぼ酒は、あと一口ほどしかグラスに残っておりません。
残った酒は、美しい切子のグラスの中で豊潤な光を湛えています。口にした印象では、果物を漬けている酒自体が、今まで出されたどの酒とも違っている様でした。
グラスを少し傾けると液面が揺れて、瑞々しい程の果実の香りがふわりと立ち上って来ます。まるで、姫がまだ食べたことの無いこの地のさくらんぼが、実際にグラスの中に沈んでいるかの様でした。
姫はグラスに口をつけて、さくらんぼ酒をゆっくり口に含みました。酒は口の中で穏やかに揮発して、果実の香りが口腔から鼻に掛けてを柔らかく満たしました。
こくりと飲み込むとするんと喉を撫でる様に滑り落ち、酒が通ったあとの道筋にぽっと火が点るように、体も気持ちも緩やかに温かく満たされました。
(「…美味いか?」)
そう尋ねられた気がして思わず目を伏せると、果実酒の余韻が朝露の雫の様に胸の奥に滴って、体中がとろりと甘く疼きました。
(…ええ、とっても。とっても、美味しいわ…!)
スグリ姫は、さくらんぼ酒を最初に口に含んだときから周りに漂っている柔かな気配に、声にはせずに胸の中で答えました。
「お味は、いかがかしら?」
さくらんぼ酒を口にしたあと黙り込んでしまった姫に、奥方様は尋ねました。
「…美味しい、です…とても、美味しいですわ…」
姫はゆっくりと、夢から覚めた人のようにそう答えて、ほうっと息を吐きました。
「奥方様?」
「はい?」
「まだ沢山用意してくださっているのに、申し訳ないのですけれど…私、もう飲めそうに有りませんわ…」
姫はほろ酔いにはなっていましたが、まだ酔っ払ってはいませんでした。
飲もうと思えば、もう少し飲めたでしょう。用意された味見の酒は、あと三本ほどでした。全部味見をすることも、やろうと思えば出来そうでした。