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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第12章 茶会と果実酒
「狭っ苦しい所ですが、どうぞ」
「ありがとう!…わ!サクナ!」
「おっ」
ビスカスの案内で着いたのは、決して広くはない部屋でした。その扉を開けるなり婚約者の姿を見付けたスグリ姫は、椅子に真っ直ぐ駆け寄って、座っていたサクナにむぎゅっと抱き付きました。

「ただいま、サクナ!」
「…お帰り、スグリ」
抱き付かれたサクナは持って居た物を手放して、姫の体を抱き締めました。

「本当に、居たわね…」
「居るに決まってんでしょうが」
早速始まったいちゃいちゃを目の当たりにしたローゼルは、しぶしぶながらもビスカスに疑って悪かったわと言いました。

「お前、酒飲んだのか」
他人が居るのを気にせずにくっついて来た姫の様子と、それをあまり気にして居ないローゼルの様子に気付いたサクナは、抱き締めた手を緩めて姫の顔を見ました。そして、その顔が赤い事を認めると、小さく舌打ちをしました。

「んーん?飲んでないわよー?」
「飲んでるだろうが、どう見ても」
「違ぁーう!これはねー?飲んだんじゃなくってー、『お味見』っ!」
ふんっ!と自信満々に言うスグリ姫に男二人は頭を抱え、ローゼルは白い目を向けました。

「飲んだんじゃねえかよ…」
「飲んでますねー…」
「ええ、飲んでらっしゃいましたわよ。お止めしようとはしたんですけど」
サクナは自分を胸で窒息させんばかりにぎゅうぎゅう抱き付いてきた姫を少し離して、ご機嫌になっている姫の頬っぺたを両手でむにゅっと潰しました。

「おいコラ。こんなに真っ赤な顔しやがって、何処が味見だ?」
「ふ…ふぃどーい…おうぼーう…」
手荒く見えても実は単なるいちゃいちゃ、という茶番を目の当たりにしたビスカスとローゼルは、引き続き窮屈な室内の至近距離で辟易しそうなベタベタが始まる予感に、用事を作って脱出することに致しました。
これ以上彼等に付き合わされては、堪りません。

「…えー…とにかく、お帰りの手配をして参りやすよ」
「助かる」
「むー!」

「私、お水とか、お帰りの間に必要そうな物を揃えて参りますわね。スグリ様、お飲みになる予定じゃ有りませんでしたから、お持ちじゃないでしょう?…宜しかったら、持っていらして」
「済まねぇな」
「う゛ー!」

唸って抗議する姫の柔らかい頬っぺたをふにゅふにゅ弄りながら平然と答えるサクナに目礼して、二人はそそくさと部屋を出て行きました。
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