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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第12章 茶会と果実酒
「お待たせ致しやした、お帰りの手配ができましたぜ」
「ありがとな。世話になった」
「どう致しまして。…おや?スグリ様、どうなすったんで」
「酔った」
(…ばかばかっ!ウソつきっ!!)
けろりと答えたサクナに、姫は心の中でべーっ!と舌を出しました。

「やっぱり、お酒が回ってしまわれたのね」
姫の為に水や上掛けを持ってきたローゼルの口調は、呆れを多少含んではおりましたが、彼女にしてはかなり優しげな物でした。

「まあな。世話になった、ローゼル」
「いいえ。良く頑張ってらっしゃいましたわよ、スグリ様。途中からちょっと…かなり惚気が凄かったけど、それも含めて上出来でしたわ。お祖母様が褒めてらした位だもの」
「…ああ」
そう返事をしたサクナは、姫を見て微笑みました。それは長年の付き合いのローゼルとビスカスでさえ見た事が無い位に、驚くほど柔らかく愛おしげな表情でした。しかし、笑みを向けられた当の本人は、マントにすっかり包まれて居たので、残念ながらそれを見る事は叶いませんでした。

「目が覚められたら、お話お聞きになったら宜しいですわ」
「どこまで憶えてるか、分からねぇけどな」
どこまで分かって居るかもな、と呟いた声はとても小さく、本人以外にはローゼルの耳にだけ届きました。

「…そうですわね。それでは、明日私からも茶会の様子をお伝えしますわ。スグリ様の目が覚められたら、どうぞ宜しくお伝えくださいな」
「ああ。ありがとな。また明日」
(ありがとう、ローゼル様、ビスカスさん。明日、きちんとご挨拶します)
口に出してと口に出さずに別れの挨拶を済ませた二人は、領主の館を後にしました。


「ねえ」
「何だ?」
帰り道、姫がふと思い付いたように呟きました。
「さくらんぼのお酒、今度一緒に飲んでみたいわ」
「ああ、そりゃ良いな」
姫のお願いを聞いたサクナは、内心にんまりしました。ほろ酔いになって行く姫を愛でるのを肴に二人きりで飲むのは、さぞ楽しい事でしょう。

「そんなに気に入ったなら、来年から一番美味い奴はお前のだな」
髪を撫でながら耳元で囁かれ、そこに軽く口づけられた姫は、くすぐったそうに笑いました。
「良いの?」
「内緒だぞ?」
「うん、ナイショね」
「…女主人様への秘密の献上品だな」
スグリ姫はくふんと笑うときゅっと抱き付いて婚約者を見上げ、口づけを受けるために、目を閉じました。
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