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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第1章 ヒイラギと姫君
「ただいま。待たせたな、スグリ」
扉が開く音がすると同時に呼びかけられて、目を伏せていたスグリ姫は、はっと目を開きました。
「…お帰りなさい、サクナ」
挨拶するとサクナは姫をじっと見ましたが、姫は思わず目を逸らしてしまいました。
(え?私、何してるの?!)
姫は、自分のしたことに驚きました。
サクナの帰りを喜ぶ理由はあっても、目をそらす理由はありません。
いつも通りにしなきゃと思うのですが、いつも自分がどうしていたか、思い出せません。
目を合わせないまま、サクナから少し離れた一人掛けの椅子に埋まる様に座っていると、姫の元まで仄かに甘い香りが漂って来ました。
(お仕事、果物で何か作る事だったのかしら)
姫はサクナから目を逸らしたまま、今考えなくてもいいような事を考えました。
「…帰ったぞ、クロウ」
サクナは姫との挨拶の後、ほんのしばらく無言で立っていましたが、ややあって家令に声をかけました。
「お帰りなさいませ、サクナ様。」
「バンシル、ご苦労だったな。助かった」
「…お帰りお待ちしておりました」
家令とバンシルからお辞儀を返されたサクナはもう一度スグリ姫を見て、注意深く見ないと気が付かない位僅かに眉を顰めました。
「まずは、お茶をいかがですか?」
「ああ、貰う」
サクナはクロウに促され、姫の向かいの長椅子に座りました。
そして姫を眺めながら注がれたお茶を飲み、途中でちらっとバンシルを見ました。
バンシルは一瞬鋭くサクナを睨み付けましたが、それだけで後は何も言わず、無言でお茶を飲んでいました。
いつも賑やかな姫が全く口を開かない為か、四人の人間が居るにも関わらず、茶器の音が時折聞こえるか聞こえないかという静かな時間が流れました。
「スグリ?」
「はいっ?」
かちゃんと小さく音をさせて空のカップを皿に置き、サクナが姫を呼びました。
「屋敷ん中は、もう見たか?」
「え?…まだ」
姫は相変わらず、サクナの方を見ないで答えました。
「行くぞ」
サクナは長椅子から立ち上がり、椅子に埋もれている姫の腕を取りました。
「え、でも」
「行ってくる。後は宜しく頼む」
姫を立たせて手を繋ぐと、サクナは二人の使用人に言いました。
「畏まりました、行ってらっしゃいませ。」
「行ってらっしゃいませ、姫様」
姫は半分引きずられるように、午後の日が差す屋敷の居間を後にしました。
扉が開く音がすると同時に呼びかけられて、目を伏せていたスグリ姫は、はっと目を開きました。
「…お帰りなさい、サクナ」
挨拶するとサクナは姫をじっと見ましたが、姫は思わず目を逸らしてしまいました。
(え?私、何してるの?!)
姫は、自分のしたことに驚きました。
サクナの帰りを喜ぶ理由はあっても、目をそらす理由はありません。
いつも通りにしなきゃと思うのですが、いつも自分がどうしていたか、思い出せません。
目を合わせないまま、サクナから少し離れた一人掛けの椅子に埋まる様に座っていると、姫の元まで仄かに甘い香りが漂って来ました。
(お仕事、果物で何か作る事だったのかしら)
姫はサクナから目を逸らしたまま、今考えなくてもいいような事を考えました。
「…帰ったぞ、クロウ」
サクナは姫との挨拶の後、ほんのしばらく無言で立っていましたが、ややあって家令に声をかけました。
「お帰りなさいませ、サクナ様。」
「バンシル、ご苦労だったな。助かった」
「…お帰りお待ちしておりました」
家令とバンシルからお辞儀を返されたサクナはもう一度スグリ姫を見て、注意深く見ないと気が付かない位僅かに眉を顰めました。
「まずは、お茶をいかがですか?」
「ああ、貰う」
サクナはクロウに促され、姫の向かいの長椅子に座りました。
そして姫を眺めながら注がれたお茶を飲み、途中でちらっとバンシルを見ました。
バンシルは一瞬鋭くサクナを睨み付けましたが、それだけで後は何も言わず、無言でお茶を飲んでいました。
いつも賑やかな姫が全く口を開かない為か、四人の人間が居るにも関わらず、茶器の音が時折聞こえるか聞こえないかという静かな時間が流れました。
「スグリ?」
「はいっ?」
かちゃんと小さく音をさせて空のカップを皿に置き、サクナが姫を呼びました。
「屋敷ん中は、もう見たか?」
「え?…まだ」
姫は相変わらず、サクナの方を見ないで答えました。
「行くぞ」
サクナは長椅子から立ち上がり、椅子に埋もれている姫の腕を取りました。
「え、でも」
「行ってくる。後は宜しく頼む」
姫を立たせて手を繋ぐと、サクナは二人の使用人に言いました。
「畏まりました、行ってらっしゃいませ。」
「行ってらっしゃいませ、姫様」
姫は半分引きずられるように、午後の日が差す屋敷の居間を後にしました。