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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第5章 桃と来客
「ロゼ。それに、ビスカスも。他人様の屋敷を勝手にうろつくのは、感心しないな」
「タンム様っ?!」
「こんにちは、スグリ嬢。ご無沙汰しております」
タンム卿は微笑みながら姫の元までやって来ると、姫の右手をちらりと見てから恭しく左手を取り、手の甲に口づけました。
「お元気そうで何よりです。…それに、ますますお美しくなられましたね」
「お、うっ…」
(おっ、お美しく、ってっ…!!)
姫は突然現れたタンム卿とビスカス、それにローゼルに混乱した上に、タンム卿の親しみの籠もった挨拶にも何と答えて言いかも分からず、頭がぐるぐるして来ました。
タンム卿に手を取られたまま姫があたふたしていると、ローゼルが苦々しげに口を開きました。
「お兄様。この方にそのような振る舞いをなさらなくても、宜しいのでは無くて?」
「え…………ええぇぇっ!?!?」
(え?え?え?おっ…お兄様っ?!?!)
「どういう意味かな」
「お兄様と婚約されているのに他の男に靡いた様な方に、下手に出てご挨拶されなくても宜しいのでは無いかしら、ということですわ」
(え、え?!ってことは、タンム様の妹さんてっ、ローゼル様っ?!)
「お嬢様、そりゃあんまりですぜ」
「ロゼ。言葉が過ぎるぞ」
「どこが言い過ぎですって?単なる事実ですわよね?」
(え、え、え、でも、妹さんは、私よりも二つか三つ、年下なんだわよね?!)
「言っただろう。私は自分から見合いを降りたのだ。その後で姫が誰とどうなろうと、それは私とは全く関係の無い事だ」
「…随分とその方に都合の良いお話ですこと」
(っていうかっていうかっていうか、ローゼル様って、私よりお姉さんじゃなかったのっ?!)
「お前こそ、いつまでその下らない執着を持ち続ける気だ?」
「なんですって!?」
「無駄な横恋慕は見苦しいぞ。それに、姫に八つ当たりするのは止めろ。結局あいつの怒りを買うだけだと、何故分からない?……スグリ嬢」
「…はっ!?は、はいぃっ!?」
自分の頭の中で「ローゼル様はタンム様の妹なのか問題」と取っ組み合ってぐるぐる回り続けていて、周りの話を何一つ聞いて居なかった姫は、タンム卿に名前を呼ばれたことで、初めて頭の外に意識が向きました。