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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第5章 桃と来客
「スグリ様?」
「はい?」
「お話は、終わりかしら?」
「あ、はい!お時間頂いて、ありがとうございました」
姫がぺこりと頭を下げると、ローゼルは、はーっと息を吐きました。

「…お兄様も、ビスカスも、こんな下らない話をする為に来たのじゃないでしょ?サクナ様、お待たせ致しました。参りましょう」

「…悪い、先行っててくれ。こいつを部屋に送ってから行く」
「え。ここ、お屋敷の中ですぜ」
「こいつ放っとくと何するか分かんねぇのを今見ただろ。…行くぞ」
「え、でも」
良いからとっとと行くぞ、と腕を引かれて、姫は来た道を部屋に連れ戻されました。

「サクナ、ごめんなさい。私ちゃんと戻れるから、お仕事行って」
「…お前は」
鍵も開けっ放しかよ、とサクナは苦い顔をして、姫の部屋に入ると室内をざっと見てから鍵を閉め、姫のおでこをこつんと叩きました。
「ここでは、なるべく鍵は閉めろ。念の為の用心だ」
「はい」
「…お前」
頷く姫を椅子に座らせて、サクナはその前に仁王立ちして腕を組みました。

「お前は!人が棘を避けてやってんのに、わざわざ避けた棘に向かって突っ込みやがって!」
「う…ごめんなさい…」
あんなに怒ったサクナを見たのは初めてでしたが、ローゼルやタンム卿に姫を会わせないためにサクナが来なくていいといったのだと言うことは、今では姫にも分かっておりました。
自分のためにしてくれた配慮を全てぶち壊すような事をしたのですから、どんなに謝っても謝り足りない、と姫は反省していました。

「自分から突っ込んで、かき回して、ばらばらにして、」
「反省してます…」

「…ばらばらにした上で、元通り以上にしやがって」
「へ?」
サクナはしゅんとした姫の前にひざまずいて、姫の頭に手を置いてぐらぐら揺すりました。

「ローゼルはなぁ、『水晶の薔薇』って呼ばれてんだよ」
「え?」
スグリ姫は叱られているのにも関わらず、すいしょうのばら、と口に出してうっとりしました。

「ローゼル様にぴったりねえ!美しくて、きりっとしてて、高貴で、気品があって」
「そうじゃねえ」
「ふぇ?」
いつの間にか姫の頭を揺するのではなく撫でていたサクナは、嫌そうに言いました。

「棘があって固くって冷たくって食えねぇんだよ」
「それ、」
それはサクナだけの解釈ではないのかと姫は思いましたが、サクナは更に言いました。
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