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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第6章 敬語と命令

「間違ってたら、怒って欲しいわ。分からないことが沢山あるんだもの、間違いも沢山するだろうし…特別扱いしないで、厳しくしなきゃいけない時は、厳しくして欲しいの」
姫は眉を寄せてうーんと考え、そうだ!とサクナを見上げました。

「もしかして、初めてだったからかも?慣れたら、ちゃんと怒られられるかも」
「ちゃんと怒られられるって何だよ」
姫が真面目にそう言っているのがいじらしくも可笑しくて、サクナは小さく笑いながら頬に口づけました。

「ね、試しに、ちょっと朝みたいに言ってみて?」
「あ?」
「なんでもいいから、『そういうことはするな』って、朝みたいに命令してみて」
「…すげぇヤラセっぽいんだが」
「いいから、練習のた」
「『黙れ。』」
「!」
言葉を途中で遮られた姫は、目を見開いたまま黙って固まりました。

「おい、別にほんとに黙らねぇでも」
試しに言えといわれたので適当に言っただけの言葉の通りに反応されて、サクナは少々慌てました。
「…ずくんってなった…」
「は?」
「…なんか…奥のほうが、ずくん、ってっ…」
そう言った姫がサクナの寝巻きを握って目の縁を紅くした涙目で見上げると、サクナは顔を覆って項垂れました。

「…お前…これ、練習の意味有んのか…?」
「お…怒られる練習的に意味あったかは分かんない…けど、ぞくってなる的には、ものすごい意味有ったっ…」
「それじゃ叱責じゃなくて褒美だろ。意味が完全に逆だぞ」
「う…やっぱり、変…?変な事頼んだ?…うう…恥ずかしい…ごめんなさい、サクナ」
潤んだ目で謝る姫を見詰めたサクナは、姫の「ちゃんと怒って欲しい」という望みを叶える方法が他に無いかどうか、眉を顰めて考えました。

「…逆にしたらどうだ?」
「え?」
「俺がお前の上から怒るんじゃなくて、お前が下手に出るってのはどうだ」
「へ?」
「今朝言ってただろ、『お願いがあります』とか」
「あれ?あれは、当主様のサクナには、当主様としてお話しなきゃと思って」
「よし、それだ。お前の方が敬語にしてみろ」
「敬語?」
「ああ。そうしたらお前が俺に謙ってるって事になるだろ?普通に言い聞かせても、怒られてる感が出るかもしれねえ」
「敬語…なるほどー!」
サクナの提案を理解して、姫は目を輝かせました。
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