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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第6章 敬語と命令
「やろうと思った事は、さっさとやっとけって意味だ。葡萄は、雨に当たって割れたりする事が有るからな。その前に、熟したらさっさと収穫しろって事だ」
「…それで、葡萄…」
姫はサクナの説明を聞いて前に天気に例えた言い方を聞いたことを思い出しました。

「『降っても照っても曇っても』っていうのみたいに、お土地柄なのね!都だと『善は急げ』って言うかしら?」
感心する姫の言葉を聞いて、サクナは重々しく頷きました。

「そうだ、それだ。だからお前も『時々練習』するんじゃなくて、今やった方がいいぞ」
「え?今?」
「ああ。お前のことだ。時々練習しようと思っても、時間が経つときっと忘れる」
「…そう、ね…」
サクナの言葉は良く考えれば失礼千万なのですが、残念ながら事実でした。

「 相手が居ないと、練習し難いしな。『善は急げ』だ、今からお前は敬語で話せ。」
「…うん、分かったわ」
単純で素直な姫は、サクナの提案を有り難く受けることにしました。

「…じゃないわね。はい、分かりました!」
姫がそう言うと、サクナは姫の髪を撫でました。
「その調子だ。で、お前にだけ練習させるのも可哀相だから、お前と一緒に俺も今から命令の練習をしてやろう」
「…え?それ、意味無いって、さっき言ってなかった?…でした?」
先程の事を思い出して姫が言うと、サクナは姫の髪に口づけながら言いました。

「ありゃ別々だったからな。一緒にやったら違うかもしれねぇだろ」
「そう?…そう、かも…ですね…」
姫は単純で素直な上にちょっとお馬鹿だったので、サクナの言葉に、なるほど、と思いました。

「だから、一緒に練習頑張ろうな?」
「はいっ、サク…じゃなくて、ご主人様と一緒に、練習がんばります!」
「いい子だ。『頑張れ』」
「『はい』っ…」
耳を噛む様に告げられたいつもより冷たいサクナの命令口調は姫をぞくっとさせましたが、ちゃんと練習しなきゃと思って耐えました。
「…じゃあ、『ヤらせろ』」
「んんっ…………は?」
命令口調と同時に耳に口づけられた姫は一瞬頭が真っ白になり、そこから還って来てやっと、言葉が脳に届きました。

「は…はぃぃいい?!しっ…しながら練習するの?!…ですかっ!?」
「ああ。いつでも普通に使える様にならなきゃ、練習にならねぇだろ?」
サクナはそう言うと慌てる姫を寝台に横たえて、額に口づけました。
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