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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第1章 ヒイラギと姫君
「…そして、ここが温室です」
姫の頭がそろそろくらくらして来た頃、ローゼルが図面の隅に描いた四角を、こんこん、と枝で叩いて言いました。
「温室っ?!温室の中、何が居るんですかっ!?」
姫は以前お見合い相手の一人から、温室の話を聞いたことがありました。その人の見た温室は、中に大きい亀とか鰐とか蛇とかすごい色の鳥とか巨大なシダとかがてんこ盛りだったと言う話で、姫に忘れられない印象を残したのでした。
…話してくれた人がどんな人だったかは、綺麗さっぱり忘れてしまったのですが。
興奮する姫をちらりと見下ろして、ローゼルは淡々と言いました。
「果物です。」
「けっ、けだものっ?!」
「……く、だ、も、の、ですわ、スグリ様。果樹です」
今度はローゼルは見下ろすのではなく、姫を見下しました。
「ここより南の国の、温かい地方にしか育たない、果物です。」
「……あ……そっか…そうですね…」
姫は恥ずかしさに真っ赤になって、自分のうっかり加減を呪いました。
ここは果樹園なのですから、落ち着いて考えれば、獣が居る訳は無いのです。
「ごめんなさい。私、どうもうっかり屋で…」
「『うっかり』。」
姫が小さくなって謝ると、ローゼルは何故か「うっかり」という単語だけを口にして、眉を顰めました。
(うっわぁ…美人は、どんな顔しても、美人だわねー…)
スグリ姫が不機嫌美人なローゼルに見惚れながら、美人は自分じゃ自分の顔が見られないから美人の周りに居る人の方が得かもしれない、などと呑気な事を考えていると、ローゼルが地面の略図を足で踏み消しました。
「あ、もったいない…」
「今お話しした場所を、これから実際に見に参りましょう」
すごく良く描けていたのになあ、と姫が残念に思っていると、ローゼルは先に立って歩き始めました。
姫の頭がそろそろくらくらして来た頃、ローゼルが図面の隅に描いた四角を、こんこん、と枝で叩いて言いました。
「温室っ?!温室の中、何が居るんですかっ!?」
姫は以前お見合い相手の一人から、温室の話を聞いたことがありました。その人の見た温室は、中に大きい亀とか鰐とか蛇とかすごい色の鳥とか巨大なシダとかがてんこ盛りだったと言う話で、姫に忘れられない印象を残したのでした。
…話してくれた人がどんな人だったかは、綺麗さっぱり忘れてしまったのですが。
興奮する姫をちらりと見下ろして、ローゼルは淡々と言いました。
「果物です。」
「けっ、けだものっ?!」
「……く、だ、も、の、ですわ、スグリ様。果樹です」
今度はローゼルは見下ろすのではなく、姫を見下しました。
「ここより南の国の、温かい地方にしか育たない、果物です。」
「……あ……そっか…そうですね…」
姫は恥ずかしさに真っ赤になって、自分のうっかり加減を呪いました。
ここは果樹園なのですから、落ち着いて考えれば、獣が居る訳は無いのです。
「ごめんなさい。私、どうもうっかり屋で…」
「『うっかり』。」
姫が小さくなって謝ると、ローゼルは何故か「うっかり」という単語だけを口にして、眉を顰めました。
(うっわぁ…美人は、どんな顔しても、美人だわねー…)
スグリ姫が不機嫌美人なローゼルに見惚れながら、美人は自分じゃ自分の顔が見られないから美人の周りに居る人の方が得かもしれない、などと呑気な事を考えていると、ローゼルが地面の略図を足で踏み消しました。
「あ、もったいない…」
「今お話しした場所を、これから実際に見に参りましょう」
すごく良く描けていたのになあ、と姫が残念に思っていると、ローゼルは先に立って歩き始めました。