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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第8章 木柵とリンゴ
「先代の旦那様も、サ…若旦那様みたいに、厳しかったの?」
姫は、作業をしながらアダンに先代のことを尋ねました。
姫にとって先代当主は、もうすぐ義理の父親になる人でした。
ですが、アダンが前に言っていた通り、会った事は有りません。亡くなっている人なので、残念ながら今後会えることも無いのですが、アダンの話を聞いていると、先代当主を知っているような、会って話をしているような、慕わしい気持ちになりました。

「ああ。若旦那様も厳しいが、旦那様は輪をかけてそりゃあ厳しかったぞ。物言う前に手が出たもんだ。随分痛ぇ思いもしたな」
「へぇ…!」
手が出て痛いということは叩かれたりとかしたのかしら、と姫は思いました。

「俺ぁここでしか働いた事が無ぇからな。一から十まで全部、旦那様に躾られたんだよ。旦那様が一番大事になさってたなぁ道具を大事にすることだ。職人に取っちゃあ道具は自分の手みてぇな物だ。だから、俺ぁ道具をきちんと扱わねぇ職人は、信用しねえ。スグリ嬢ちゃんの時もそうだった」
「私?」
「ああ。嬢ちゃんは道具をテーブルにぶちまけたりしねぇで大事に扱ってたし、どの道具もしっかり手入れされてるだろ?こいつはこんなに見た目はふわふわしているが、信用出来る職人だって、すぐ分かったぞ」

姫は、自分がそんな風に思われていて、こんな風に褒められるとは、思ってもみませんでした。
先代の頃から長く仕事をしているアダンにかけられた言葉が光栄すぎて、じわじわ体が熱くなり、思わず涙が湧いてきました。
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