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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第8章 木柵とリンゴ
「…駄目だ。」
「あ!」

突然背後から地を這うような声がして姫が振り向くと、そこに居る人物の姿も見えない内に、ぺちんとおでこを叩かれました。

「おっ前っ!なんでそこで考えてんだよ、駄目に決まってんだろ!?!?一瞬も考えるな、言われる前にさっさと断れ!!」
「あの、えっと?」
姫は全く痛くなかったおでこを抑えながら、まだ面接なんじゃなかったの?!と思って慌てました。

「若旦那様っ!?」
「アダン、久し振りに顔見たと思ったら、なんで人の女房に粉かけた上に泣かせてんだ?」
「女房っ?!」
「にょうぼうっ?!」
アダンとスグリ姫が同時に叫び、サクナは姫を睨みました。

「…どうして、お前まで、驚いてんだ…!」
「だって、それっ…初めてっ…」
スグリ姫が初めて言われた「女房」という言葉に悶えている間に、アダンは驚きから立ち直ったようでした。

「じゃあ、スグリ嬢ちゃんは、若旦那様の」
「俺の嫁だ、嫁。本人が何て言ったかは知らねぇが、こいつはとっくに俺んだから、誰とも結婚なんざ出来ねぇぞ」
サクナがまた姫をじろっと睨んだので、姫はぞくっとして首を竦めました。

「…なるほどねえ…そうでしたか…スグリ嬢ちゃんじゃなくて、スグリ奥様でしたかい…」
呆然と呟くアダンを見て、姫はあたふたして謝りました。
「ごめんなさい!嘘吐くつもりじゃなかったんだけど、言う機会を逃して…言い出せなくてっ、」
「いやいや、 気にしねぇでくだせえ。 俺の方こそ、失礼なことを言っちまって…そうですか、奥方様をねぇ…」
アダンは気を悪くした様子も無く笑うと、照れたように頭を搔きました。

「いやあ、スグリ嬢ちゃんの腕と気性に惚れて、年甲斐も無く先走っちまって…」
姫はアダンの話を済まなそうに聞いているだけでしたが、サクナはアダンが「スグリ嬢ちゃん」や「惚れて」という度に、傍目では気が付かないほど少しだけ、イラッとしている様でした。

「こんな可愛らしい嬢ちゃんなのに、力持ちだし、木工の腕もなかなか見事なもんですねえ。柵を直すのに知恵を貸してくれただけじゃなく、手伝って下すったんでさあ」
「柵?」
「ええ。丈夫にする方法を教えてくれなすったんで。これで修理の回数が大分減りそうでさぁ」
姫が提案した内容を説明しながら、アダンは不機嫌そうなサクナに修理した場所を見せました。
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