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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第8章 木柵とリンゴ
「ううん、良いお話ばっかりよ?えっと、例えば…使用人さん達に道具の手入れを厳しく言ってるけど、その方が仕事しやすいからだって。最初に厳しく教えてもらえるこの家の人達は運が良い、って言ってたわ」
「そうか」
「うん。サクナが褒められるのを聞くのって、すごーく嬉しいことね?そうでしょ、すごいでしょ!って、何度も自慢しそうになっちゃったわ」
「…お前は…」
歩いていたサクナは突然立ち止まり、指を絡めるように手を繋ぎ直して、姫の髪を撫でました。

「お前は、ほんとに、果てしなく、クソ可愛いな…」
「さっき何度も可愛くないって言った癖に」
姫はサクナの言った「女房」で舞い上がった気持ちが、「可愛くない」連発で急降下したことを思い出して膨れました。

「あー、あれな」
「あれな、じゃないでしょ…そりゃ、趣味・木工だし、可愛さ少な目かもしれないけど」
奥さんをあんなふうに言うなんて、と言う部分を口に出すのはまだ気恥ずかしかったので、その部分は口籠もりました。

「いや、木工は良い趣味だろ、現に役に立ってたじゃねぇか。可愛さは、別に少なくねぇぞ。むしろ多過ぎる。もっと減らしても構わねえ」
「でも、さっき」
「…あのなあ。お前の可愛さは、俺だけ知ってりゃ良いんだよ」
「へ?」
「他の奴がお前を認めて褒めるのは喜ばしいが、他の奴がお前を可愛いと思うのは全く喜ばしくねぇ。しかも、あいつは喰えねぇオヤジ三羽烏の一角だぞ」
「『喰えねぇオヤジ三羽烏』?」
サクナの言い方が面白かったので、姫は聞き返しました。

「ああ。マイスター…先代と、クロウと、あと一人があのアダンだ。今は『若旦那様』とか言ってやがるが、俺のガキの頃ぁ鬼だったぞ、鬼」
「アダンさん、優しかったわよ?」
「年取って丸くなったんだよ。若い頃は怒らせたら震え上がるほどおっかなかったぞ。果樹園の鬼がアダン、屋敷の中の鬼がクロウ、 鬼の親玉が先代だ。…あとは、奴が優しかったなぁ相手がお前だからだろうな」
「…『お嬢ちゃん』だから?」
「違ぇよ」
サクナは拗ねた様に言う姫の目の高さに合わせてしゃがんで目を合わせると、鼻をふにっと摘みました。
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