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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第9章 埃と扉
「へっ?!きゃ!溢れたっ!」
「大丈夫だ、溢れても困らねぇようにしてある」
「ひゃっ?!」
「ん?どうした」
「お湯っ…くすぐったいっ…っ」
「はぁ?!お前、くすぐってぇのか!?」
姫の言葉に、サクナは驚愕しました。
サクナが入ってきて肌が触れるのと同時に、お湯がちゃぷちゃぷ揺れて姫の肌に当たりました。その感触がくすぐったくて、スグリ姫は身を震わせてくすくす笑い始めたのでした。
「うんっ…くすぐったっ…ふ、ふふ、っ」
(…おい…すげぇな風呂…!)
くすくす笑いながら身を捩る姫を見て、サクナはまず雷に打たれたように驚き、次に呆然として、最後に抑えきれない喜びが込み上げました。
スグリ姫は特異体質で、十六になった時からこの夏まで、「くすくす姫」と徒名される程のくすぐったがり屋でありました。部分的に例外の場所はありましたが、肌に手が触れると笑ってしまう為に、九十九人の殿方と重ねた「お見合い」は、尽く失敗しました。
ひょんなことからサクナと致してくすぐったくなく事を終えることができ、それによって特異体質に隠された呪いが解けて、くすぐったがりが治ることになったのです。
くすぐったくなく触れ合って、蹴飛ばされることも殴られることも無しに愛し合えるのは、喜ばしいことではありました。
その一方でサクナは姫と「お見合い」してくすぐったがられた殿方全てに、忌々しい気持ちも持っていたのです。
「お見合い」には体の相性の確認が含まれて居た為、スグリ姫は最後まで行くことと肌に手で触れられること以外の様々なことを、経験してきておりました。
サクナは常々、姫が誰かと経験してきたことは、姫がそれを思い出せなくなるくらい全て自分が上から塗り潰してやり尽くして、頭からも体からも消し去りたいと思っていたのです。
その中で、一つだけ今までどうしても出来なかったことがありました。
それが、「くすぐったい」です。
くすぐったくなかったからこそ姫と結ばれたのですから、くすぐったいを望むのは、完全に矛盾しています。
矛盾していて馬鹿で下らなくて子ども染みていると分かってはいましたが、極度の姫馬鹿と揶揄されるサクナにとって、くすぐったがる姫に触れるのは、もはや夢の域でした。時々、くすぐったがる姫に一度蹴っ飛ばされてみたかったと思うことさえありました。
その一生叶わないと思っていた事が、風呂で簡単に叶ったのです。
「大丈夫だ、溢れても困らねぇようにしてある」
「ひゃっ?!」
「ん?どうした」
「お湯っ…くすぐったいっ…っ」
「はぁ?!お前、くすぐってぇのか!?」
姫の言葉に、サクナは驚愕しました。
サクナが入ってきて肌が触れるのと同時に、お湯がちゃぷちゃぷ揺れて姫の肌に当たりました。その感触がくすぐったくて、スグリ姫は身を震わせてくすくす笑い始めたのでした。
「うんっ…くすぐったっ…ふ、ふふ、っ」
(…おい…すげぇな風呂…!)
くすくす笑いながら身を捩る姫を見て、サクナはまず雷に打たれたように驚き、次に呆然として、最後に抑えきれない喜びが込み上げました。
スグリ姫は特異体質で、十六になった時からこの夏まで、「くすくす姫」と徒名される程のくすぐったがり屋でありました。部分的に例外の場所はありましたが、肌に手が触れると笑ってしまう為に、九十九人の殿方と重ねた「お見合い」は、尽く失敗しました。
ひょんなことからサクナと致してくすぐったくなく事を終えることができ、それによって特異体質に隠された呪いが解けて、くすぐったがりが治ることになったのです。
くすぐったくなく触れ合って、蹴飛ばされることも殴られることも無しに愛し合えるのは、喜ばしいことではありました。
その一方でサクナは姫と「お見合い」してくすぐったがられた殿方全てに、忌々しい気持ちも持っていたのです。
「お見合い」には体の相性の確認が含まれて居た為、スグリ姫は最後まで行くことと肌に手で触れられること以外の様々なことを、経験してきておりました。
サクナは常々、姫が誰かと経験してきたことは、姫がそれを思い出せなくなるくらい全て自分が上から塗り潰してやり尽くして、頭からも体からも消し去りたいと思っていたのです。
その中で、一つだけ今までどうしても出来なかったことがありました。
それが、「くすぐったい」です。
くすぐったくなかったからこそ姫と結ばれたのですから、くすぐったいを望むのは、完全に矛盾しています。
矛盾していて馬鹿で下らなくて子ども染みていると分かってはいましたが、極度の姫馬鹿と揶揄されるサクナにとって、くすぐったがる姫に触れるのは、もはや夢の域でした。時々、くすぐったがる姫に一度蹴っ飛ばされてみたかったと思うことさえありました。
その一生叶わないと思っていた事が、風呂で簡単に叶ったのです。