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嫌がらせ
第1章 嫌がらせ

店を出ていこうとする彼に、私は再度謝った。

「いいって、気にすんなよ」

「でも……」

「俺、千鶴としか結婚したくないし」

うっ、と口ごもった。彼の言葉はいつも真っ直ぐだ。

「……俺も、悪かったよ」

彼はバツ悪そうな顔をして、頭を掻いた。

「え?」

「千鶴がすぐ一人で抱え込む性格だって知ってんのに、全然気付いてやれなかった」

確かに彼は結構鈍いところがある。でも、それでも今回のことに関しては、彼に落ち度は一つもない。私は、ごくりとつばを飲んだ。

「ち、ちゃんと話すから」

私は彼を真っ直ぐに見上げた。彼も真っ直ぐに、私を見つめていた。

「これからは、私……自分のこと、話すよ」

彼は白い歯を見せて、おう! と威勢よく笑った。それは、私の大好きな笑顔だった。
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