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ビスカスくんの下ネタ日記(くすくす姫後日談サイドストーリー)
第9章 夢は夢だから夢なのです
「変わりはなさそうですね。今のところは、心配無いと思います」
「有難うごぜーやす…」
ウサギ姫の新しい侍女の一人が手を洗いながら淡々と言い、俺は心から礼を言った。
ヴァイオレットって名前のこの侍女は、俺の命の恩人の内の一人だ。今までどんな暮らしをしてたのか分からねーが、怪我やら病気やらの処置に明るいらしい。お陰様で助かりやしたって所なんだが、そんな侍女まで見つけて来て雇うなんざ、サクナ様ぁどんだけスグリ様が心配なんだと思わずには居られない。
もっとも、ウサギはお姫様だからねー。今までだって、御住まいにゃあ医者やら何やら居ただろう。引越し先の巣穴も出来るだけ今と変わらねー様に整えといてやりたいって気持ちは、分からねーでも無い。
「その様ですな。大事に至らず、本当に良う御座いました」
「ありがとーごぜーやす…」
家令のクロウもヴァイオレットと一緒に来て傷を診てくれたんで、俺は一応礼を言った。ヴァイオレットの時と違って心から礼を言う気にならねぇのは、さっき聞かされた話のせいだ。
昨日はこの二人が一緒に俺の怪我の世話をしてくれたんだが、クロウの方がヴァイオレットより先に来て、応急手当てをしてくれた…らしい。
俺ぁクロウが来てるのにゃ気付かねぇうちに気絶したんだが…あれを見られてたって事ぁ、あん時ゃあもうこいつぁ近くに居たって事だよな。
それについて考えちまうと、どうにも素直に感謝しにくい。余計な事しやがってと言う思いがふつふつと……いやいや、それは人として良くねぇよ?男の風上にも置けない上に、人でなしにまでなりたかねーよ。
「どうなさいました?お疲れの様ですな」
ヴァイオレットは別の仕事があるらしく、怪我を診終わると退席した。元々はウサギ付の侍女だからな。残ったクロウは細々とした用事を片付けてくれながら、俺に話し掛けて来た。
誰のせいで疲れてると思ってんだ、コラ。
…いやいや、クロウを恨むのは、八つ当たりだな。全部俺のせいです、すみません。
「や…目が覚めたら、婚約した事になってたんで、ちょっと…驚いちまって」
誰と婚約してたかってなぁ恐れ多くて言い難いから、適当にぼやかした。
お嬢様はそう仰ったらしいが俺は婚約したつもりなんざ無ぇって事を、どう説明したら分かるだろうか。
「ああ…その事ですか」
俺が言い方に悩んで居たら、クロウの奴は、事も無げに頷いた。