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ビスカスくんの下ネタ日記(くすくす姫後日談サイドストーリー)
第9章 夢は夢だから夢なのです
「その……刺された後の、お嬢様との事は、ほとんど全部、俺の想像って言うか妄想って言うか……ただの夢だと、思ってやして……」
「そう。……別に、構わないわよ?……もっと飲む?」

お嬢様は俺の飲み干したコップを受け取ってそう聞いて下さったが、俺は首を振った。

「ありがとうございやす、十分頂きやした。……えーっと、その……お嬢様が構わなくても、俺ぁ構います。お嬢様と、けっ、こんなんて、俺にゃあ、無理です。」
「……無理?」

ずれた枕を直そうと俺の上に再び屈み込んでいたお嬢様の眉が、ぴくりと動いた。

「無理って、何?」
「だから、無理なんで……うっ!」

お嬢様に話の途中で頭の下から枕を取り上げられて、俺は舌を噛みそうになった。

「無理?どうして?」

お嬢様は外した枕を、ぽんぽん叩きながら宣った。どうやらずれを直す前に、枕が潰れているのが気になったらしい。

「どうしてって……俺なんぞと結婚なんかしたりなさっちゃあ、お嬢様が、勿体無さすぎですよ……」

お嬢様はふっくらした枕を上から下まで眺めると、俺の頭の下に戻してくれて、その後、肩を竦めた。

「お前の言ってる意味が、全っ然、分からないわ」

何言ってんだ、このお嬢様は。
全く……賢い癖に、物分かりの悪いお嬢様だね。

「だから!無理なんですって!俺なんぞが結婚相手になっちまったりしたら、お嬢様の値打ちが下がっちまうじゃねーですか!!って事ですよ!!」

「見くびられた物ね」

「はい?」
「私を、そんな事位で価値が下がる程度の女だと思っていたの?」
「や……」
「……屈辱だわ」

お嬢様は俺の頬っぺたを、柔らけぇ両手で包み込んだ。

「良いこと?誰と結婚しようが、私の価値は下がったりしないわ。むしろお前みたいな庶民的な猿と結婚したりなんかしたら、心が広くて健気で親しみやすい女として、価値が上がると思うわよ」
「お嬢様。結婚は、遊びじゃ無ぇんですよ」
「……私が、遊びと思ってるとでも?」

お嬢様は悲痛に見えるくれぇ真面目な顔で、俺の事を睨み付けた。

「私は、本気よ。真剣に、お前との結婚を考えてるわ」
「……結婚ってなあ、綺麗事じゃ無ぇんですぜ?」
「分かってるわよ」

……分かって無え。
分かってたら俺なんぞ、選ばねーでしょうが。
俺は、物分かりの悪い女でもよーく分かる様な言い方をしてやることにした。
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