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ビスカスくんの下ネタ日記(くすくす姫後日談サイドストーリー)
第9章 夢は夢だから夢なのです

「お分かりになりやしたか?お分かりになったら、お家に帰ってお部屋で大人しくお休みなさって下さいねー?護衛も、こんな役立たずですし……あ、洗濯屋行かれるんだったら、顔は隠して、誰かに付いてってもらって下せえ」

 こんだけショック受けてんだから、行かねーだろうけども。ま、もし行ったとしても、洗濯屋は口は固ぇから、変な噂にゃならねぇだろうけどな。

「……お前っ……」

 俺が嘯いてる傍らで、お嬢様は、ぶるぶる震え始めた。

「大丈夫ですかい?あ、これ使います?使いかけですけどー」
「要らないっ!!」

 俺がサイドテーブルに置いてあったタオルを差し出したら、叩き落とされた。

 あー、すっげぇ怒ってらっしゃるねー。水晶の薔薇が、きらきらを通り越して、ぎらぎらしている。
 さっきまでの沈んだ様子たぁ全く違う、まだ涙が溜まってるってのに燃える様に輝いた目に、ゾクゾクする。
 それでこそ、お嬢様だーー気が強くて可愛くて意地っ張りで優しくて泣き虫な、俺のお嬢様。
 お嬢様にゃあお嬢様らしく、気高く美しく傲慢な位で居て欲しいんですよ。俺がちょっと死に掛けたからって、可哀想がって救って下さろうとなんか、しなくったって良いんですよ。

「……お前なんかっ……お前なんてっ……大っ嫌いっ!!!!」

 お嬢様は燃え上がる様な生気を纏って怒り狂いながら扉を凄い勢いで閉めると、足音高く部屋から出て行かれた。
 俺はその神々しいまでに凶暴なお振る舞いにこっそり拍手して、お嬢様の叩き落としたタオルを、布団の上から取り上げた。

 ……お嬢様。お嬢様みてぇな方にゃあお分かりにならねぇでしょうが、夢は、夢だから、綺麗なんですぜ。
 俺が、お嬢様と――なんてのは、所詮は夢でさあ。
 お嬢様は、俺の見た中で一番綺麗で、一番大事で、一番神聖な夢なんですよ。
 夢を夢の座から引き摺り下ろしちまうなんて事ぁ、俺にゃあ到底出来ねえ。それがもしも叶っちまったら、俺ぁその先どうしたら良いのか、皆目分からねーよ。

「俺なんかの為に、泣かねぇで下せぇよ……」

 眠れる訳なんぞ、無かったけれど。
 俺はお嬢様が叩き落としたタオルに顔を埋めると、幾分かふんわりとした枕に沈み込んで、目を閉じた。
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