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ビスカスくんの下ネタ日記(くすくす姫後日談サイドストーリー)
第13章 首より大事な物が有ります
「誰か!誰か居ないか?!ロゼ姉さんがっ……医者を呼べ!!」
「お嬢様っ!?」
廊下の灯りの手入れをしていた俺は、お坊ちゃんの叫び声に、お嬢様の部屋に駆け込んだ。
部屋ん中では、お嬢様が蹲って震えてらした。息が荒い。荒いなんてもんじゃ無え、息は速ぇし、苦しげな風のような音がする。ざっと見た限りじゃあ、怪我やなんかじゃ無さそうだ。久々に、あれか。お母様が亡くなった後、こうなってらした事が何度か有った奴だ。
こうなった時のお嬢様は、自分で自分が分かんなくなって、自分で自分を抱き締める。それを慎重に外して、お嬢様が痛がらねぇぎりぎりの力で、お嬢様の体をぎゅっと抱く。それから、これ以上お嬢様が怯えねぇように、静かにゆっくり話しかけた。
話し掛けながら、俺は違う事を思ってた。
……大丈夫ですよ、お嬢様。
お嬢様が大丈夫だって事ぁ、俺がちゃあんと分かってます。焦らなくっても、ゆっくりなさって良いんですよ?
お嬢様ぁ、元に戻らずにゃあ居られねぇお人なんですから、今だきゃあ少しのんびりしましょうや。
のんびりしたって、誰も咎めたりゃあしませんよ……
しばらくすると、お嬢様ぁ落ち着いて来なすった。さすがお嬢様だ。ちゃんと戻って来なすった。
お嬢様が落ち着いた時点で、俺は突っ立ってた御従兄弟様に、何をしたのか聞いてみた。
ーー別に、何も。恋人達なら、誰でもする様な事だーーそんな返事で、納得できるかよ。
……このお坊ちゃんで、大丈夫なのか?
お嬢様は、本当に幸せになれんのか?
頭にまたその疑問が点ったが、お坊ちゃんを問い詰めようとしたら、お嬢様に止められた。
お嬢様は、朝から体調が悪かったらしい。あとは婚約者様に甘えるからと、下がる様に匂わされちゃあ、従うしか無え。
お嬢様が甘えて頼るのは、もう俺じゃあ無ぇんだな。
お坊ちゃんが頼り無ぇのは、お嬢様の色々な事を、まだ良くご存じないからだ。今頃ぁお嬢様から、時々起きる今日みてぇな発作の話や、その時どうして欲しいかなんかを、ちゃんと聞いてる事だろう。
そうやって少しずつ、俺よりずっとお嬢様のお世話をするのに相応しい、ご夫君様が、出来上がる。
これならきっと、お嬢様は大丈夫だ。
俺がお傍に居なくなっても。
俺はその夜、お嬢様の正式な婚約を見届けたら辞めさせて欲しいと、御領主様に願い出た。