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感情のない世界 // 更新される景色
第4章 を
「は、やく……初期化を」
耳を塞いだまま、僕は君を急かした。
あと一年という宣告だったけれど、そんな猶予も無さそうなんだ。
はやく、僕が、完全に停止する前に。
「初期化を…っ」
「……!」
君を怯えさせないように気を払う。そのために必要なのは…そうだ、笑顔だ。僕は微笑んだ。
カタカタカタカタ....
カタカタ
カタカタ
『 さぁ来い、637S。彼女がお前の主人だ 』
『 はい、承知しました 』
『 今日から懸命に遣えるのだぞ 』
『 はい、しっかりと務めます。お嬢様は僕がお仕えする大切なマスターですから、どんな命令にも従わさせて頂きます 』
『 いやだ──…いわないで
マスターだなんて、よばないで』
───
マスター?マスター……って?
ああ そうか…──マスターとは君のことか
脳裏を逆流する。
この記憶は、僕が初めて君の家に連れてこられた日。
君が僕のマスターになった日の、やりとりだ。