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月下の幻影
第1章 月下の幻影
女将が呼んでくれたタクシーが到着し、真琴は後部座席に乗り込んだ。
「○○駅まで、お願いします」
「あれっ、お嬢さん。確か昨日も乗ったよねぇ?」
「あっ」
偶然にも、昨日駅からこの旅館まで運転してくれた、あのタクシーの運転手だった。
「夜の海はどうだったかな?」
「あ、はい……。窓から見たんですけど……とても、素敵でした……けど、ちょっぴり怖かったです」
昨日の夜の海での出来事は、話すのはやめておいた。
「そうかいそうかい……。一人で海に行かなかったのなら、大丈夫だ」
「あの……あそこの夜の海は……やっぱり一人では危険なんですか?」
「そうだねぇ。実はね、昔、あの海で水難事故があったんだよ」
タクシーの運転手はとつとつと話し始めた。
今から十年ほど前、男の子が波にさらわれて亡くなった不幸な事故があった。
「それまではねぇ、この街も観光地として有名だったんだけど、その事故のせいで今じゃすっかりさ」
「そう、だったんですか……」
「でもね、この街の人たちは観光地がどうのってよりも、男の子が二人も死んじまったことの方が辛かったんだよ」
「二人?」
あぁ、とタクシーの運転手は頷いた。