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月下の幻影
第1章 月下の幻影

「お嬢さん、夜の海に行ったことはあるかい?」

ない、と真琴は答えた。友人とビーチに遊びに行ったことはある。しかもそれも、日中だけだ。

「夜の海はとにかくすごいんだ。とても魅力がある。あ、ただし一人では行かないでね。危ないから。窓の外から眺めてごらん」

タクシーの運転手はとても嬉しそうに海について語っていた。




それから暫くして着いたのは、こぢんまりとした旅館だった。

予約なしでも泊まれる宿泊施設に連れて行ってくれ、という真琴のオーダーに
タクシーの運転手は、なるべく安く、きれいで、かつ海に近いところを選んでくれたのだった。

「ありがとうございます」

「いえいえ。楽しんでおいで。あ、それとお嬢さん」

真琴はタクシーから半身出たまま、顔だけ振り返った。タクシーの運転手は、優しい笑顔で、最後にこう言ったのだった。

「夜の海には、魔物がいるから……気をつけて」
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