この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
月下の幻影
第1章 月下の幻影
一歩浜辺へと足を踏み入れると、そこはまるで別世界だった。
ゴオォ──……
海が、海の底に潜む魔物が吠えるかのように、鳴り響く轟音。
どこからが空かどこからが海か、もはや判別のつかない目の前に広がる暗黒の世界。
浜辺に打ち上げられた水しぶきが頬に飛んできたが、真琴はまるでとらわれたかのように、海に向かう視線を全く逸らすことをしない。
なに、これ……。
真琴は、恐怖と興奮で、全身が震え上がっていた。
彼女の知る海は、きらきらと太陽光できらめいていて、まぶしく華やかな場所だった。
けれど違う────。
夜の海は、それとはまるで別物だった。
闇を纏い、黒く染まり、人間を飲み込もうといわんばかりの圧倒的な引力。
一歩踏み入れればそこは死の世界。
「……」
一体、この夜の海が持つ魔力は何なのか……。
今初めてそれを目の当たりにした真琴には知る由もなかった。