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月下の幻影
第1章 月下の幻影

一歩浜辺へと足を踏み入れると、そこはまるで別世界だった。

ゴオォ──……

海が、海の底に潜む魔物が吠えるかのように、鳴り響く轟音。

どこからが空かどこからが海か、もはや判別のつかない目の前に広がる暗黒の世界。

浜辺に打ち上げられた水しぶきが頬に飛んできたが、真琴はまるでとらわれたかのように、海に向かう視線を全く逸らすことをしない。

なに、これ……。

真琴は、恐怖と興奮で、全身が震え上がっていた。

彼女の知る海は、きらきらと太陽光できらめいていて、まぶしく華やかな場所だった。

けれど違う────。

夜の海は、それとはまるで別物だった。

闇を纏い、黒く染まり、人間を飲み込もうといわんばかりの圧倒的な引力。

一歩踏み入れればそこは死の世界。

「……」

一体、この夜の海が持つ魔力は何なのか……。

今初めてそれを目の当たりにした真琴には知る由もなかった。
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