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50センチの距離
第16章 クリスマス シュトーレン
「実際レストランでも、ソースをキレイにパンで拭って食べてくれるヒト居たよ。それってそれだけ美味しかった、って事でしょ。レストランじゃシェフは厨房の中で、直接お客さんと会話する機会ってない。だけど、下げられた皿がそんなキレイになってたらさ、美味しかった、って思ってくれた事が分かるじゃん。それは素直に嬉しいもんだよ。でも、どこのレストランでも、サービスする側ってのは、お客さんに食事を楽しんで欲しいんだ。ガチャガチャする人にも、それに嫌な顔をする人にも、ここに来てよかった、ここでまた食事したいって思って帰って欲しい。だから、ガチャガチャする人がマイノリティなら、遠回しに注意してお願いする事もあるけどね。横柄にお客さんを選ぶような店は、実は大したことないって俺は思ってる。ま、一番美味しい状態で食べて貰いたい、てのは作り手の本音ではあるけど。美味しいかどうかを決めるのは食べるお客さんだから。それを作り手が決め付けるのもおかしな話だと思う。それにね、喫茶店は飽くまで喫茶店。格式もテーブルマナーも関係ない。予約なんかしなくて、気軽にフラッと来て食って飲んで喋って、を楽しんで帰って欲しいんだ。それもあって、あえて喫茶店やってるとこもあるから。こうやってカウンター越しにお客さんとも喋れるしね。」

高塚さんの笑顔に、私は安心して笑った。
確かに、高塚さんが厨房にいたら、私は今のタイミングでパンは貰えなかった。パン食べ放題、とか詠ってる店ならともかく、そうじゃないトコロでセットでもないパンを下さいなんてお願いも出来ない。高塚さんが、カウンター越しに私のことを見てくれてるから、私が食いしん坊な事も知ってくれてるから、聞いてくれたんだもんね…やっぱりこの気遣いと優しさ、それにお店に対する愛情と姿勢…そのどれかひとつが欠けても、この空気感はないんだ、と感じた。このお店こそが、高塚さんの人となりそのもの。高塚さん自身のことを何も知らない私だけど、そんなこと関係ない。
このお店が好き、イコール高塚さんが好き。高塚さんが私のことをを好きかどうかは関係ない。私が、高塚さんの事が好き、それでいいや、と思えた。
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