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50センチの距離
第18章 アッラナポリターナ ー追憶ー
普段は背中にくるバッグを胸の前に抱えてれば大丈夫だろう、と思ってた。

いきなりイタリア語らしき言葉で男に話しかけられた。
え?と戸惑っていると、ジャポネーゼ?という単語は辛うじて聞き取れて、日本人か、てことか?と思いながら頷くと、更にイタリア語で捲し立てられる。いやアンタ今日本人かって聞いただろうが、なんで更にイタリア語だよ、と思いながら、聞き取ろうにも何を言われてるのかさっぱりわからない。男は斜め前を指差しながらなおも捲し立てる。釣られてそっちの方を見ても男が言わんとする事は全くわからなかったのだが…急にガチッと音がして。ガッと胸に引っ掛けたバッグが引っ張られる。ずるりとバッグが身体を離れて初めて、さっきのガチッて音はバッグの留め金を外す音だったのだと気付いた。グループのスリにあったのだ、と俺が認識した時には、そいつらは人混みの中に消えていた。
周りにいた人も一瞬ざわめいたけど、大騒ぎってほどでもなくて。何が起こったのかをきちんと把握できている人の方が少なかったのか、もしくは、日常茶飯事で驚きもしなかったのか…

この1年、一所懸命バイトして貯めた金の半分以上を、一瞬で盗られたと思うと、腹が立つやら情けないやら…いや、放心状態、が一番正しかっただろうな…

道端でスーツケースを開けるわけにもいかず、途方に暮れて座り込んだ。
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